一途な御曹司は溺愛本能のままに、お見合い妻を甘く攻めて逃がさない
 父はごほん、と咳込んで、私をソファに座らせる。
 父も私の向かいに座った。

「見合いの日程だが、一週間ほど遅らせていいか」

 そう言われて、ドキリとする。
(まさか破談になったなんてことは、ないよね……?)

「え? あ、はい。もちろんいいですけど、どうかされたんですか?」
「少し、な」

 父が歯切れ悪く言う。
 私は隣に立っている秘書の増田を思わず見上げると、増田も少し困ったように頷いた。

「大丈夫ですか? 私が海外に一人で行ったりしたから、優史さんのお気に触れましたか?」
「いいや、優史くんは関係ないんだ。心配させて済まない」
「いえ……」

 お見合い相手はずっと、藤製薬と同規模の製薬会社であるみのり製薬の一人息子である三徳優史さんになるだろうと父から聞かされていた。
 なるだろう、ということは、ほぼ親同士の話し合いの中で決まっているということだ。

 私が拒否することはないので、相手の優史さんが拒否しなければ、お見合いだけでなくそのまま結婚まで一直線となる。


 わが藤製薬は、子宮内膜症などの女性に特有の疾患のみに特化した小さな製薬会社だ。国内での売り上げもかなり低い位置にいるが、その特性と、あるホルモン治療薬の特許からなんとか持ちこたえている。

 そして同じようにみのり製薬は、抗がん剤の一つの特許とそのブランドを確立していて、同じように低い位置で持ちこたえている状況だ。
 そのみのり製薬の長男と藤製薬の長女である私とが結婚して、二つの製薬会社を一つにまとめて大きくする狙いもあるのだと、父からは聞かされていた。

―――まぁ、『みのりふじ製薬』って名前にするって聞かされた時は、正直『ダサい……』と思ったけど。

 ダサいからと断る理由になるはずもない。
 そもそも経営に私がタッチするわけではない。

 ちなみに、お相手の優史さんの写真と経歴を見たけど、思ったより年も近くてさわやかで優しそうな人でほっとはしていた。

 私は誰ともキスはしたことないし、もちろんそれ以上もしたことないが、結婚してしまえばきっとできるものだろう。優史さんとなら、想像はつかないがなんとかできそうである。

 知り合いの中には、15歳以上年上の怖そうな男の人と政略結婚させられた例も見ていたから……私はかなりラッキーな方であると思う。
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