一途な御曹司は溺愛本能のままに、お見合い妻を甘く攻めて逃がさない

 苦しくなる。苦しくなりすぎて、もうその手を離してほしかった。
 なんでもいいから。

 どうでもいいから。

「そんなのっ。わ、私は……」
「なに?」

 苦し紛れの離婚したい理由。
 私は、何も考えず『ぽろり』と出てしまったのだ。

「好きな人ができましたっ! とても頼りになって優しい人っ! ただそれだけですっ!」

 次の瞬間、私は、とんでもない理由をはっきりと口にしていた。

―――今思えば、あれは鷹也さんのことだ。
 好きな人のいる彼を本気で大好きになってしまった。

 だから『離婚したい』だなんて言った。

「は?」

 しかし、鷹也さんはその言葉を信じて、見たこともないほど不機嫌な表情をした。

(な、なんで、そんなに怒るの⁉)

 私は予想外のその様子に急に焦りだす。

「そ、そそそそそそんな人間とまだ夫婦ごっこを続けられますかっ……⁉」
「本気か? それで、俺と離婚したいって?」
「ほ、本気ですっ」
「相手は?」
「そ、そんなの関係ないですよね」
「関係あるだろ」
「は、離してくださいっ」
「その男とどこまでした」
「……へ?」
「手は? キスはした?」

(だから、なんでこれだけそんなに怒ってるの⁉︎)

 泣きたくなった時、鷹也さんは、無理やり私の唇を奪った。

「んんっ……!」

 無理矢理に口づけられているのに、鷹也さんの唇の感触に泣きそうになる。

 そのキスに応えそうになって慌てて鷹也さんを押したけど、その手も鷹也さんに取られてベッドに縫い付けられた。

 私はこの人のことが好きだった。
 今も、やっぱり好きだ。

 子どもができなくても、私のことが好きじゃなくても、
 まだみっともなくずっと近くにいたいって思ってしまう。


「沙穂は俺の妻だ。身体も、心も、すべて俺以外に動かすことは許さない」


―――私だって、ずっとそうしたいんだ。
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