一途な御曹司は溺愛本能のままに、お見合い妻を甘く攻めて逃がさない
 鷹也さんは私を抱きしめ、後ろから髪にキスを落とす。
 私は息を吐いて、まとまらない言葉を吐き出していった。

「鷹也さんとの子どももできないし……私は私の役割を果たせているのか、私、それが一番不安で……」
「それは……すまない」

 鷹也さんが神妙な面持ちで言う。
 鷹也さんのその言葉に、私は慌てて首を横に振った。

「鷹也さんのせいじゃないです。でも、その時、フェミル製薬のご令嬢と……貴子さんと婚約されていたことを聞いたんです。鷹也さんはまだ貴子さんのことが好きって聞いて。鷹也さんも。だから……気持ちが通じ合っていないから、私たち、子どももできないのかなって思ってしまって……」

 私が言うと、鷹也さんは困ったように眉を寄せる。

「それでもまだ半信半疑だったけど、家で本を見てたら、綺麗な女性の写真が出てきて……そこに『Takako』って書いてあったんです。それ見たら鷹也さんが私以外の人が好きだったって言うのが本当だったんだって思って……。でも、今日会ってみたら貴子さんと顔が全然違ったんですけど……」

 貴子さんもかなりの美人だった。だけど写真の女性はそれとも違う、なんというか、気品あふれる美人。孔雀のような人だった。
 それを聞いて、鷹也さんは少し考え、口を開く。

「写真……たかこ、か。母だな」
「お母さんなんですね……。って、お母さん⁉」

 私は驚いて叫ぶと、鷹也さんを二度見する。

「『鷹子』って名前。俺、鷹也だろ。父が勝也、母が鷹子で、鷹也って、案外安易な名づけだよ。たまたま、フェミルの藤崎さんと同じ音の名前でさ。最初婚約話が持ち上がった時、そんなきっかけだったみたい。ちなみに、母は俺が大学の時に亡くなって、めぼしい写真はあれしかなかったから」

(そう言われてみれば、鷹也さんにすごく似ていたような……)

 私は目をそらせると、「ず、ずいぶんきれいなお母さまですね」と決まり悪く呟いた。
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