一途な御曹司は溺愛本能のままに、お見合い妻を甘く攻めて逃がさない

「お急ぎですか? 私、ここまで車に乗せてもらってきたんです。よければ、そのままお使いになってください。増田も少しだけいい?」
「もちろん」

 運転していたスーツ姿の男性が頷く。

「でも……」

 戸惑う俺に
「どちらまで?」と有無を言わさないような声で彼女は聞いた。

 その言葉に押されるように、俺は言葉を吐き出す。

「永山大学総合病院まで……」
「増田、永山大学総合病院の場所分かる?」
「裏道わかりますから20分もあれば着きます」
「なら早く乗って」

 彼女はそう言うと、強引に車の後部座席に俺を押し込む。

「あ、ありがとう」
「顔色悪いです。これも、着くまで食べれたら食べてください。それから少し寝てください」

 そう言って渡されたのは、きっと誰かに焼いたであろう手作りのクッキーだった。

「変なものは入ってませんからご安心ください。では失礼します」
「お礼は必ず」
「こんなことくらいでしなくていいです」

 きっぱり彼女がそう言って、車が発進する。
 俺は戸惑いの中で、運転手の男性に声をかける。

「彼女のお名前をお聞きしても?」
「許可を得ておりませんのでお伝えしかねます」

 その男性にきっぱり断られて、閉口する。
 彼女の周りはしっかりものが多いらしい。

 後でわかったのだが、この男性は藤製薬の社長秘書だった。
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