一途な御曹司は溺愛本能のままに、お見合い妻を甘く攻めて逃がさない
 車は18分で病院に着いた。
 お礼を告げ、走って病院に駆け込んで、

―――俺は、母親の最後の10分に間に合った。

 母が亡くなって呆然と座り込んでいたとき、ふと彼女の顔を思い出す。
 鞄の中に押し込んでいたクッキーを取り出すと、もうすっかりボロボロに割れていた。

 それでも、それをなんとなく口に含むと、母親と過ごした日々を思いだした。


 俺は、きっとその場に立ち会うことは辛いだろうと思って怯んだ。
 だけど、最後に微笑んだ母親を思い出して、俺は本当にその場に間に合って良かったと思っていた。


 それからは葬儀や会社のことなど、目の回る忙しさで……
 喪が明け、落ち着いてから大学に行ったとき、藤さんの顔を見て、
 あの子が昔から何度か目にしていた藤さんの年の離れた従妹であったことを思い出したのだった。
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