second love secret room クールな同僚医師の彼に溺れる女神:奥野医師&橘医師特別編完結


「それでは始めますね。検査時間が少し長くなるかもしれないので、眠って頂いても大丈夫ですよ。リラックスして検査受けて下さいね。」


口ぶりはクールだけど、内容は優しい。
彼らしい対応に感心する。

その間にも彼は彼がすべきことを進めている。
中でも気になったのは、あたしとは異なるプローブのアプローチ。
あたしが見えなかった視野がくっきりとエコー画面に映し出されている。
間違いなく小児循環器専門医の、しかも心臓エコーが得意な医師レベル。

日頃かなり勉強しているのだろう
新生児集中治療の腕も相当である彼なのに、専門ではない小児循環器のことまで・・・

「お疲れ様でした。今日の検査の結果はもう少し詳しく診てから、奥野先生からお伝えして頂こうと思っています。」

エコー画面を通じて、今田さんの胎児に難しい疾患がありそうなことはあたしでもわかった。
あたし以上にその状況を把握しているはずの橘クンなのに、彼は至って冷静で、彼の声かけを受けた今田さんも不安気な顔を見せることなく、診察室を後にした。

再び照明を灯した診察室にはあたしと橘クン、ふたりだけ。
元旦の夜以来だ。


『急遽、引き受けてくれてありがとう。』

「いいえ。丁度、手が空いていましたから。」


多分、手が空いていたのは嘘だ
彼は自分から率先して動く人間なはずだから
NICU(新生児集中治療室)の看護師からも、看護業務まで手伝ってくれると感謝の声が聞かれているし、今日もその一環でここに訪れてくれたんだろう


『難しそうでしょ?』

「ええ・・・かなり。」

『右胸心までは掴んでいたけど・・・』

「ええ、右胸心もありそうです。若干大きめなVSDもある。DORVも・・かな・・・?奥野さんもさっきおっしゃっていたように心臓の軸もズレています。」

『それってもしかして・・・複雑心奇形・・・』

「ええ。DORV(両大血管右室起始症)・・・でも、右胸心があって軸もズレているとなると、もしかしたら修正大血管転位症かも・・・」


修正大血管転位症
先天性心疾患(生まれつきの心臓病)の中でも珍しい病気
全身に血液を送る心室の左右が逆になっているのが特徴
肺に血液を送る肺動脈がポンプ力(血液を押し出す力)の強い左心室から、全身に血液を送る大動脈がポンプ力の弱い右心室から出ている
そのため、右心室への負担が大きくなりやすく心不全や不整脈が起きやすいとされている

この病気の多くは手術が必要となる
修正大血管転位症ではなくDORV(両大血管右室起始症)でもその多くが手術が必要

胎児エコーだけでは診断はできないけれど、どちらの疾患にせよ複雑な心奇形がありそうな今田さんの胎児もおそらく手術が必要だ


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