second love secret room クールな同僚医師の彼に溺れる女神:奥野医師&橘医師特別編完結



『ラッキーなのか、アンラッキーなのか・・・』


彼女と顔を合わせるのは院内のカフェテリアで偶然居合わせたあの時以来
しかも、あの時は、奥野さんが去り際に新年の挨拶をしてくれただけで、彼女は俺に話どころかその挨拶への返答をする時間すら与えてはくれなかった。


『そろそろ“引く”のを止めろってことなのか?』


NICU看護師の佐藤さんの“押す引くのバランスが大事”という言葉が頭に残っている俺は、その言葉と自分の多忙ぶりを言い訳にして、敢えて彼女に関わろうとはしなかった

そして、今。
エコー読影依頼を受けるということは“引く”を止めるきっかけになるかもしれない


でも、今、医師である自分が考えなくてはならないのは、プライベートでの押す引くではなく、

『大事な仕事依頼だ・・・余計なことは考えず、読影に集中しろ。』

目の前にある胎児心エコー読影という仕事だ。


コン、コン


ゆっくりとドアをノックすることで、集中しようと心を整える。

『失礼します。』

丁寧に挨拶することで、平常心を保とうとする。



そっとドアを開けた先に目に入ってきたのは奥野さん。

「はい、どうぞ・・・・すみません、お忙しい時間に・・・橘ク・・・先生・・・」

『胎児心エコーは人並みには読影できるので来ました。』

どうやら俺が来るとは予想していなかったような驚いた顔の彼女に、俺は冷静を装ってそう返事をした。


無理もない
小児循環器医師が来てもおかしなくない状況
俺は彼女の中でも新生児集中治療医師という存在なはずだから

でも、近年、出生前診断が発達してきていることによって循環器疾患が出生前の早い時期に発見されることが増えてきている
そのため、俺は周産期での循環器治療にも力を入れていきたい・・・そう思ってずっと勉強はしてきた

その俺には渡りに船で、小児心臓外科の権威である東京医科薬科大学の日詠医師と小児循環器医師である奥様が大学の定年退職を機に、当院の周産期センターの特別顧問医師としてやってくることになった

ここ最近、そういう大きな変化の波に乗り始めた俺にやってきた今回の貴重な臨床経験の機会
しかも、奥野さんと一緒に取り組むことができる大切な機会


『奥野先生、先生が診たエコー所見、教えて頂けますか?』

「わかった。」


プライベートでは同じ道を歩めずにいる
でも、公の場で、同じ患者さんを見るという道はちゃんと今ここにある


『じゃあ、エコー、再び始めますね。』


俺はすぐ真後ろで見守ってくれている奥野さんの存在にココロを満たされながら、エコー検査のプローブを動かし始めた。



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