second love secret room クールな同僚医師の彼に溺れる女神:奥野医師&橘医師特別編完結
『あ~、年末は分娩がやけに多かったな・・でもあと10分弱で新年って・・・』
あたしの中での毎年の恒例行事
大晦日に病院屋上で近所にあるお寺の除夜の鐘の音に耳を傾けること
それは前任地であった名古屋南桜総合病院でも行っていたこと
今年も例外なくそれを行っている
『雪が降りそうだな~。年明けまであと、3分か・・』
雪が降りそうな寒い日でも年明けに鳴り始めるはずの除夜の鐘に耳を傾ける
例年、風邪ひきそうと思いながらその時間を過ごしている
でも今年は温かいストールを肩にかけているから寒くても大丈夫!
いつもその鐘が鳴り始めるまでに、来年のことを願い
鐘が鳴り始めたら、今年は・・と願う
まだ鐘が鳴っていない今は、来年のことを願おう
『来年も一年、元気に仕事ができますように・・・』
「来年も元気で・・・来年もよろしくお願いします。」
『・・・橘クン!!!』
例年通りひとりで年明けを迎えるはずだったのに
除夜の鐘が鳴り始めた今、隣には橘クンがいる。
彼にキスされてから、なんだか落ち着かないままのあたし
本人を目の前にしたら尚更
本当ならば自分から彼の元に出向いてブッシュドノエルのお礼と今、肩にかかっている温かいストールのお礼を言わなきゃいけなかったのに・・・
「今日も冷えますね・・・奥野さんも当直だったんですね?今日。」
『・・・うん・・・そう。』
クリスマスイヴの夜にはLED電飾でキラキラ輝いていた転落防止柵の側面。
今はそこにあったLED電飾が取り外されていて、辺りは真っ暗。
話しかけてくれている橘クンの表情を窺う余裕もあたしにはなくて。
でも今更、お礼を言っていなかったことを後悔しても仕方がない。
今、言えばいい。
『橘クン・・・これ、ありがと。あと、ブッスドノエルも美味しかった。ありがと!』
橘クンの表情もしっかり見えない状況で、あたしは肩にかかっていたストールを両手で持ちながら、ずっと言えなかったお礼を早口で言い切った。
一秒でも早く伝えなきゃと焦った結果、早口で。
「・・・ブッスドノエル・・・・」
『あっ!!!!・・・・』
その早口だったせいで、ブッシュドノエルと言うべきところをブッスドノエルと言ってしまったあたしを橘クンは見逃してはくれず。
「ははは・・・ハハハ!!!!」
『・・・そんなに笑わなくても・・・』
「すみません・・・・かわいくて・・・」
『えっ?』
「・・・・・」
『・・・・・』
さっきまであたしの言い間違いに大笑いをしていた橘クンが息を潜めた。
それに釣られるように黙ったあたし。
そんなあたしたちは同じタイミングでお互いの顔を見合った。
暗闇の中でもわかる
なんだか照れ臭そうな橘クンがそこにいる
こっちまで照れ臭くなってまたお互いに黙ってしまったその瞬間。
ゴ~ン♪
遠くのほうから除夜の鐘がまた響いて聞こえてきた。