second love secret room クールな同僚医師の彼に溺れる女神:奥野医師&橘医師特別編完結
『落ち着け、俺。』
もう一度電話を切る。
このままスマホを手に持ったままだと、また同じことを繰り返すと思った俺は、ようやく自分の車に乗り込み、助手席の上にスマホを置いてエンジンをかけることで、奥野さんへの電話を焦る自分を落ち着かせた。
『さすがに、正月ともなると芯から冷えるな・・・車の中、温めておかないとな。』
車のメーターパネルの表示されている青色の水温警告灯がなかなか消えないことがきっかけで、今から助手席に乗ってくれるであろう奥野さんのために車内を温めておくことに気が向き始めた俺。
エアコンの温度設定を少し高めに設定している最中に、助手席の座面の上に載せたままのスマホがブーンブーンと鈍い音をたてながら揺れた。
『電話って、気が逸れている時のほうが、ちゃんとこうやって繋がるんだよな。』
ついさっきまで焦って通話マークを押していた自分にクスっと笑ってからスマホを手にとり、今度こそ落ち着いて通話マークを押してそれを耳に当てた。
≪もしもし、橘クン?≫
『あっ、ハイ。』
≪よかった、やっと電話、繋がった!!!!≫
『・・・やっと・・・ですか?』
≪さっきから橘クンのケータイに電話していたんだけど、ずっと電話中だったみたいで・・・≫
電話中の相手はお互いだったんだな
それなのに、繋がらないって焦るとか
ちょっと滑稽だ
そういうの・・・久しぶりだな
『・・・奥野さんも電話中だったんですね。』
≪・・・あたし・・・も・・・?≫
『俺もかけていました。奥野さんに。着信履歴に残っていた奥野さんと思われる電話番号に。』
≪そうなの?≫
『ええ。電話中なら仕事は上がっているのかなと思って。』
≪・・・・・・≫
とうとう黙ってしまった奥野さん。
電話では顔が見えない
彼女が今、どう想っているかもわからない
だったら早く彼女の元で駆け付ければいい
俺は彼女と一緒に出掛ける約束をしているのだから
『電話中だったんですね、すみません。クルマを持ってくるので、職員通用口で待っていてもらえますか?』
だから俺が電話口で余計なやりとりをしなくてもいいように、さっさと用件を伝えた。
≪・・・わかった。待ってる。≫
その俺に彼女が言ってくれた“待ってる”という返事に嬉しいという感情を抱きながら一秒でも早く彼女を迎えられるように電話を切った。
直後、再び助手席に載せたはずのスマホが勢い余って助手席の座面を跳ね返って座席の下の足元へ落ちてしまった。
『あ~、ホント俺・・・落ち着け・・安全運転すべきなんだから。』
それを拾い上げて今度こそ助手席の座面の上にそっと載せる。
浮足立ってはいけないとまだ冷えていた指先をエアコンの温風で温めてから、ぐいっと背筋を伸ばしハンドルを握ってアクセルを踏んだ。