恋と旧懐~兎な彼と私~
「手紙を書きたいなら持っていく。言いたいことがあるなら伝えてあげる。怒りたいなら,責めたいなら私がそうする。なにも捨てられないのは,暁くんが優しいからでしょ? それは弱さじゃない。でも,それを暁くんがが望んでないなら,私が全部代わりにしてあげる」



なんでも1人でやることはない。

他人が口を挟んだっていいはずだ。

でも……



「暁くんはそれも望まないね。別に,なにもしなくて良いんだよ。私が逃げ場になってあげる。どうしても優しくいるのが辛くなったとき,頼って? それが私の,踏み込んで傷つける勇気の形だから」

「……何,それ。…ごめん。絶対見せたくないから,肩かして」



私の肩に顔をうずめる暁くん。

それを無理に引き剥がして顔を見ようなんて,私も思わない。

日々,成長していく生き物にとって,なにもしないことは一番苦しいのかもしれない。

でも,暁くんはそのままでいいんだって,私は心から思ってる。

だから……


「だから,私の考え方はきっと間違ってないけど,私みたいな甘言ばかり吐く女に引っかけられちゃだめだよ?」



私はもうそれで良い。

一瞬でも暁くんの支えになれたなら。



「……だからってなに,それに,何かするもしないも俺次第だから」

「……うん。そうだね」



それは,もちろんそうだよ。



「ねぇ,絶対分かってないよね?」



ぐいっと引き寄せられた一瞬。

ふにゅっと唇に柔らかい感触がした。



「ぇ、えぇ??」

「だから,ありがとってこと」



いや,何が? このキスが?

いや違う,さっきの話の続きだ。

え?! じゃあ今のは何なの??

私の全ての考えを遮るように,暁くんは私を強く抱き締めた。



「本当に,ありがとう……」



その声が震えていて,私はもうなんでも良いかと思った。

そして,緩く抱き締め返す。

これは恋とか同情とかじゃなく,ただ純粋にそうしたくてしただけのこと。

私達はほんの数分だけそのままでいた。

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