鬼弁護士は私を甘やかして離さない
恵介は私の身の回りのことをしてくれるようになった。
出勤は恵介の家の方が近いけど何もかも揃っている私の家から今の状況では出るのが難しい。
この体調の悪さで私は動けなくなり、それを見かねた恵介は反対に自分の荷物をまとめて私の部屋へやってきた。

「真衣、アイス買ったけどどう?」

「食べれるかも」

でも一口食べると吐き気がしてきてしまう。
私は慌てて恵介に返して、トイレへ駆け込んだ。

「ごめん」

「いいんだ。何か食べれるものがあるといいんだけど」

恵介はネットを見てはつわりでも食べられたというコメントを見ては買い物をしてきてくれるようになった。 
月曜日、どうしても起き上がれずに就職してはじめてお休みをとった。
恵介も木曜から出勤なので私と一緒に寝て過ごした。

「恵介の傷はどう?痛くない?」

私が声をかけると恵介は私の頭を撫でながら、

「俺の心配はいいんだ。真衣のほうが心配だよ」

「私も恵介のこと心配だよ」

「優しいな。ありがとう」

恵介と狭いベッドでくっつきながら寝ていると安心してつわりも軽くなる気がした。

「明日は仕事に行ってみる」

「無理だろ」

「無理じゃない。だいぶいいし、こんな忙しいのに休んでられない」

今日休んでしまったことだけでも、申し訳なさでいたたまれない。
明日は必ず出勤しようと思う。

「真衣は責任感が強いからな。そこも魅力だけど母親になるんだから決して無理はしないでくれ」

恵介に言われるとまだお腹にいる実感はない赤ちゃんの母親になるんだと改めて感じた。
恵介の手が私のお腹に触れると「ママを労ってやってくれよ。頼むな」と優しく声をかけていた。
こんなに優しい恵介に守られて私もこの子も幸せだと思った。

翌朝、なんとかゼリーを飲み出勤した。
恵介に押し切られ車で事務所まで送ってもらった。
本当は恵介も出勤すると言っていたが病欠なのだから休むべきだと私は伝えた。
恵介は渋々了承し、帰りも必ず連絡する様に約束させられた。

出勤すると気が張っているからか仕事をすることができた。
帰りは迎えにきてもらい、とても楽させてもらった。

木曜日、恵介が事件後初出勤を迎えた。
怪我の後とは思えないほどに精力的に働いている。
そんな姿を見て私はホッとした。

私は相変わらずつわりが続いており、なんとかオレンジジュースでしのいでいた。

外回りにいかないで済むような仕事ばかりを恵介に振られ、なんとかデスクワークをこなしていた。

「真衣ちゃん、登記書類持って法務局へお願い。3時までに間に合う?」

「はい。大丈夫です」

そう請け負うと私は阿部さんから書類を受け取り、コートと鞄を手に出かける準備をした。

「行ってきます」

事務所で声をかけると視界の隅に心配そうな顔の恵介が見えた。
私は頷くと事務所を出て行った。
法務局へは歩いて20分。

帰ってくるとまた恵介からの視線を感じる。

恵介は以外と心配症なんだと思うと嬉しくなり胸が温かくなった。
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