義理の兄妹で恋をするのはフィクションの世界だけだと思っていた
思い出

ののside



あまりの真剣な表情に断ることなんて出来なかった。


今日は、駆くんと1日彼女として出かける日。


待ち合わせはダイニング。


『デートだから!よろしく!!』


と爽やかな声で言われると、変に気合は入ってしまうもので、普段よりも丁寧にメイクをした。

髪は、珍しく外ハネにしてみた。内巻きか外巻きかで10分くらい悩んだのは初めてのことだ。

服選びにも時間をかけた。

春らしいパステルグリーンのダボっとした薄手のニット。それに合わせたのは、オフホワイトのストレートデニムパンツ。バッグは女性らしいと言えば、小さめのバッグだと思い、自分の持っている中で小さい茶色のバッグを選んだ。

……多分変じゃないはず。

友達のみのりんに写真を送りつけて確認したところ、『上出来!大人っぽくていい!』という返信がきた。


「…………」


だけど、自信のない私はなかなか自分の部屋のドアを開けられずにいた。

時刻は集合時間である9時。

朝ごはんを一緒に食べてから1時間で準備を終わらせることに成功したのに…。


(………変に緊張する…)


深呼吸を繰り返しながら、その場で意味のない足踏みをした時だった。


《コンコン》


「っ!」

「のんちゃん、準備できた?」


駆くんの声が聞こえて、心臓が大きく跳ねる。


「で…できた…けど…なんか……出たくない」

「え?」


歯切れが悪い言い方で、困らせるようなことを口走る自分に腹が立った。


「……デートなんて初めてだし…。どんな服着れば良いかわからない…。それに今日1日だけ彼女になるって言われても私に何ができるの?って感じだし!」

「うわぁ、かなり悲観的」


姿は見えないけど、駆くんが笑っているのは声音でわかった。

あぁ、呆れられたかも。

心の中で謝罪の言葉を並べていると…。


「……のんちゃん開けて良い?」


ドアノブが動き出す。


「え…待っ…」

「待たない。」


《ガチャ》


いつもと雰囲気が違う駆くんの姿に息を呑んだ。


「俺は……どんなのんちゃんでも良いんだけど。」

「っ……うぅ…」

声にならないような声が漏れて、頬が紅潮していく。いつも優しい駆くんだから、きっと酷評は飛んでこないだろうとは思っていたけれど…。


「……似合ってる。可愛い。」


そういう駆くんも、普段とは違うヘアセットで…。


「……駆くんも…髪型…前髪上げてるの初めて見たかも…」


『似合ってる』の一言が言えない。素直になることが苦手な私は言葉が詰まって口籠る。

そんな私の態度から察したのか駆くんは、

「ウキウキしすぎていつもしないようなセットしてみた…!似合う?」

と、質問を投げかけてくる。


いつもよりも更に爽やかな印象。綺麗な額が羨ましい。


まさに、柔軟剤かなんかのCMに出てくる白いワイシャツを着た清潔感溢れる男性って感じ。


「………うん…」

「ありがとう」


にっこり笑って返す余裕な駆くん。


(あたたかい笑顔だな)


いつも同じ感想を抱く。




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