義理の兄妹で恋をするのはフィクションの世界だけだと思っていた
約束通り、風呂も済ませて寝巻き姿に着替えた俺はのんちゃんの部屋の前に立つ。ドアをノックすることすら緊張していた。
(……晩御飯以外で話すの、気を遣って避けてたから新鮮だな。)
駆け引きが大事って『片想い成就』を謳ったサイトに書いてあった。それを俺は律儀に守っていた。
そういうところも知能レベルが低いと思う。
「はぁ」
大きく息を吐いて、いざ。
《コンコンコン》
「のんちゃん、入っていい?」
「はーい」
中から声が聞こえると、ドアがゆっくりと開いていく。そして現れたのんちゃんも寝巻き姿で。
「待ってた」
「………」
呆然としてしまった。
「駆くん?」
「っ…肌触り良さそうな寝巻きだね。」
なんか今日の俺はポンコツです。
「うん。お母さんがこの間送ってきてくれて。いいやつみたい。」
「そっか。似合ってる。」
そう言いたいわけじゃないのはわかってるのに、咄嗟に出てくる言葉がどれも取ってつけたような言葉だった。
(……めちゃくちゃキンチョーする…)
「部屋、入っていい?」
「うん」
ドアを開けて招き入れてくれるのんちゃん。中に入ったはいいけど、いかがわしい感じがしたからドアは閉めなかった。
「?」
首を傾げて、のんちゃんは俺の気持ちなんてつゆ知らず『バタン』とドアを閉めた。
「何処座る?」
「床で…!」
そこでベッドと答える度胸はありませんでした。
だって…そういうこと未経験ですし…。
オトナな色事が脳裏によぎるのは仕方ないことだと思う。けれど、多大な罪悪感を抱いてしまう。
「じゃあベッド背もたれにしよ。」
のんちゃんはゆっくりと座って、ぽんぽんと桃色のカーペットを叩いて促す。露出した肌は透明感があって陶器みたいだった。隣に座ることすら緊張して、心臓がバクバクと静かな部屋で鳴っていた。
「……じゃあ、失礼します。」
「………もっと近く来て。」
「はい…」
割と頑張ってグイグイ攻めてきたのに、いざとなるとヘタレな自分に嫌気がさす。
「…………話って何?」
いきなり本題に入るのんちゃんの不器用さは、すでに熟知している部分だから今更驚かなかった。
「…俺の気持ちの話。」
「好きじゃなくなった?」
「………ううん。」
なんて言おう。
なんて伝えよう。
「……割と自信持ってるでしょ。」
「うん。今の駆くん、顔に全部出てる。」
落ち着いた様子で、俺の顔を覗き込む。フワッと香るシャンプーの匂いで、より顔が熱くなっていった。
きっと、自分が照れてることも全てお見通しなんだと思う。
「………あんまりじっと見ないで。」
「別に見てな…」
「緊張するから」
のんちゃんの言葉を遮って話す。
「緊張するんだよ。割と。グイグイ攻めてきたけど、いざ、のんちゃんが振り向いてくれたら落ち着きなくなって……。」
「………」
「うわぁ…かっこわる。」
一言で言うなら『かっこ悪い』が正しい。
『情けない』も似合ってる。
「……お世辞にも良い男だって言えないけど、俺…………」
頭の中で浮かぶ言葉をそのまま口にする。のんちゃんの黒い瞳が綺麗で、見惚れながら…一つ一つ丁寧に声に出した。
「ずっと一緒にいたいと思う。離れたくないって思う。大切にしたいし、笑っていて欲しい。」
「………」
「……………この気持ち、なんて言ったら伝わるかな…」
伝われ、と念じるような視線をのんちゃんに向けた。
「………好きって言葉でいいんじゃないでしょうか?」
歯切れ悪い気持ちの表現にのんちゃんは笑う。
「…………………好きだよ…」
ものすごく小さな声で、気持ちをこぼした。
「………ありがとう。私も好き。」
この瞬間。
抱いた気持ちを大切にしていきたいと、心の底から思った。