教育的(仮)結婚~残念御曹司(?)のスパダリ育成プロジェクト~
「な、何だ?」

 明らかに狼狽した様子に、私は慌てて顔を上げる。見えたのは、信じられない光景だった。

「亜美から手を離せ!」

 私の方へ伸ばされていた田島先輩の右腕が、しっかりとつかまれている。彼の背後に立っていたのは――。

「……どうして?」

 そこにいたのは林太郎さんだった。

「おい、いったい何のつもり――」

 田島先輩は声を荒らげて振り返ったが、すぐに黙り込んだ。

 無理もないと思う。
 林太郎さんは彼より背が高いし、もともとけっこうな強面だ。しかも今は硬い表情で、エグゼクティブ然とした上質なスーツを着こなしている。

 きっと田島先輩は「いったい何者だ?」と思い悩んでいるのだろう。

「失礼」

 林太郎さんが手を離し、軽く頭を下げた。

「だが、頼むから亜美さんに近づかないでもらいたい。あんたを怖がっているから」
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