教育的(仮)結婚~残念御曹司(?)のスパダリ育成プロジェクト~
「東野様、これはお店のサービスだそうです。新しいお客様を連れてきてくれたからって」
「イタリア語、うまいですね」
「いいえ、まだまだです。ずっと勉強してきたから、日常会話はなんとかこなせますけど」
「何でイタリア語だったんですか?」
「そうですね。もともとイタリアが好きなんですが……たぶん実家の仕事とも関係があると思います。私の父は横浜でテイラーをしているので」
「テイラー?」
「はい。オーダーメイドでお仕立てする洋品店です」
「なるほど」

 そういえば父にも気に入りの店があったような気がする。もちろん俺はまったく興味がないから、そこの名前も知らないが。

「うちの店は紳士服専門で、外国のお客様も多いんです。どの国の方も親切ですが、イタリアの方でとてもおしゃれで、すごく楽しいお客様がいらして……その方とおしゃべりしてみたくて、勉強を始めました。それにイタリア語って、響きが音楽みたいにきれいに思えましたから」
「……へえ」

 相づちを打ちながら、俺はまた桐島さんの笑顔に見とれてしまった。
 かろやかで楽しげな彼女のイタリア語は確かに音楽みたいだと思ったのだ。

 実は、俺は甘いものに目がない。ウエイターが持ってきてくれた焼き菓子をさっそく食べていると、桐島さんが不思議そうに首を傾げた。
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