教育的(仮)結婚~残念御曹司(?)のスパダリ育成プロジェクト~
動揺のローマ
 はじめはどこにいるのかわからなかった。

 一面濃い霧に覆われていて、自分の足元しか見えないのだ。
 舗装されているが道幅は狭く、両側は草が生い茂る斜面になっていて、下の方に田んぼが広がっているようだ。

(ここは……日本?)

 私は知らない道を歩くのが大好きだ。趣味というほどではないが、時間ができればよく散策に出る。

 事前にスマホでマップを検索することもあるが、行く先を決めずに疲れるまで歩くことも多い。

 のんびり町並みを眺めたり、カフェに入って休んだりしながら道路探検をするのが、いつもの休日の過ごし方だ。興がのれば、帰宅してから記憶を頼りに地図を描いたりもする。

 こういう状況は、ふだんならテンションが上がるはずだった。
 気ままに歩いている時、霧や雨で景色がかすむのもミステリアスでいい。だけどここは――。

(あそこ?)

 ふいに私は自分が夢を見ていることに気がついた。どこにいて、これから何が起きるのかまで瞬時にわかってしまう。

 何度も繰り返し夢に見てしまう苦い過去――。

 大学二年の夏休み。私はテニス部の合宿で訪れた高原で、ひとり早朝の散歩に出たのだ。
 有名な観光地だからいつも混んでいたが、その時間なら人も少ないため、毎朝のように出かけていた。

 歩いていくにつれて少しずつ霧が晴れ始め、緑したたる高原の風景が広がっていく。

(だめよ! 行っちゃだめ!)
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