教育的(仮)結婚~残念御曹司(?)のスパダリ育成プロジェクト~
誘惑のローマ
 ローマに来て四日目の朝、俺たちはヴァチカン市国(ローマ教皇庁)を訪れた。

 誰もが知っている、ローマ市内にある小さな独立国――ここにはローマカトリック教会の総本山で、ローマ教皇がおられるところだ。

 亜美さんによると有名な美術館や礼拝堂があるらしく、大きな広場にもけっこうな人がいて、長い列もできていた。

 俺は並ぶのが嫌いだし、以前なら速攻でこの場を立ち去っていただろう。

 しかし今はこの混雑がうれしかった。迷わないようにという理由で堂々と亜美さんと手がつなげるし、場所によっては人ごみに押されて自然と彼女と密着してしまうからだ。

 なめらかで柔らかい小さな手、俺に寄り添う優しいぬくもり――亜美さんが隣にいてくれると、なんだか安心できて、胸の奥があたたかくなるような気がする。

 ずっと昔、母と手をつないだ時に感じたように穏やかで、そのくせ妙に胸がざわつく不思議な感情。
 どうしていいかわからず、もてあましてしまうような、それでいて決して手放したくないような、これまで知らなかった気持ち。

 だが、彼女の方は俺をどう思っているのだろう?
 本当は手なんかつなぎたくないのに、相手が客だから我慢しているとしたら……?

(だけど嫌なら、さすがに断るだろ? いや、でも優しい人だから、「ノー」が言えないのかも)

 ちゃんと女性とつき合ったことがないため、俺はいろいろなことが不安でしかたがない。こんなことは初めてだった。
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