教育的(仮)結婚~残念御曹司(?)のスパダリ育成プロジェクト~
 俺は慌てて、テーブルに置かれたエスプレッソを口に運ぶ。強い苦みで、気持ちを落ち着けようとしたのだ。

「林太郎さん?」
「何でもない。ちょっと苦かったんだ」

 ひどくうろたえながらも、俺はなんとか笑ってみせた。

「ところで今から三十分ほど時間をくれないか?」
「えっ?」
「悪い。急用を思い出したので、いくつか電話をかけたい」
「急用?」
「そうだ。どうしてもすぐに連絡しないといけないんだ」

 そう。急用といえば、これ以上ないくらいの急用だった……俺にとっては。

 亜美さんと話していてあることを思いつき、どうしてもそれを実現したくなったのだ。時間が限られているので、今からでは無理かもしれないが。

「わかりました。いいですよ」

 亜美さんは怪訝そうにしていたが、すぐに頷いて席を立った。

「私もちょっと用事を済ませてきます。しばらくしたら戻ってきますね」
「頼む」

 遠ざかっていく華奢な後ろ姿を眺めながら、俺は急いで電話をかけ始めた。
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