好みの彼に弱みを握られていますっ!
「これからは婚約指輪(あのリング)の代わりに結婚指輪(こっちの指輪)を付けていてくれない?」

 エンゲージリングと一緒に購入しておいた、あれより遥かにシンプルなデザインのマリッジリング。

 出す機会を計れなくてずっと持ち歩いていたそれを彼女の前に置きながら言ったら、春凪(はな)が瞳を見開いた。

 失ってしまった婚約指輪は、石が大き過ぎて何かするたびに春凪が指から抜いていたのを僕は知っている。

 でも表向きゴテゴテと飾り立てるように石のついていないこのリングなら、その心配もないだろう。

 敢えて裏側に一石だけ嵌め込み式で入れたブルーダイヤも、内側だから石が傷ついたり外れたりする心配もしなくていいはずだ。

 内側には石だけじゃなく「M to H」の刻印とともに、〝BAE〟と彫り込んである。
 これは「Before anyone else」の頭文字で、「誰よりも大切な人」と言う意味なんだけど、とどのつまり僕の自己満足だし、春凪には通じなくてもいいと思っている。


「僕も、今日から同じのを付けるから。――ね?」

 リングケースの中に二つ。
 寄り添うように並んだプラチナ製の結婚指輪を見て、春凪が泣きそうな顔をするから。
 僕はそんな春凪のことを壊れそうなくらい目一杯抱きしめたいと思った。

 そんなことをしたら春凪が痛いだろうから出来やしないんだけど。

 でも――。

 だからこそ、揃いのリングで彼女と繋がっていたいと痛切に思うんだ。


 僕の方には、石は愚かメッセージだって入ってやしない。
 だけど、ぱっと見はどう足掻いたってお揃いのリングだと一目瞭然だからそれでいい。


宗親(むねちか)さんと……お揃い? あの、私と《《そう言う関係》》だってバレても……その……平、気……なんです、か?」

「もちろんだよ。(むし)ろ、この可愛い人は僕の奥さんなんです!って……誰彼構わず言いふらしたいくらい」

 言って、照れまくる春凪に軽く(ついば)むみたいな口付けを落とすと、僕は彼女を真正面から見詰めた。

「だからね、――柴田(しばた)春凪(はな)さん。僕と……《《今すぐ》》入籍(けっこん)してください」

「い、今すぐって。……むっ、宗親さんは……いつもいつも急過ぎますっ」

 僕の強引なプロポーズに、春凪が困った様な顔でそう言うから。

 僕は眉根を寄せて「ダメ?」と畳み掛けた。

 そんな僕に、春凪はとことん甘いんだ。

「……ダメ……じゃ、ない、です。ホントは……すっごくすっごく嬉しい、です」

 そう言ってはにかみながら了承してくれたのを確認して、僕は春凪をギュッと抱きしめた。



 前田康平。
 僕の大事な(ひと)を傷付けたんだ。
 もちろん覚悟は出来ていますよね?
 必ずきっちり落とし前をつけてもらいますから、そのつもりでいてください。


 春凪を腕の中に閉じ込めたまま、僕はこれからの算段を練った。
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