優しくない同期の甘いささやき
料理をあまりしないと話していたからだろうが、実はオムレツだけは得意だった。

幼い頃から母が作るふんわりオムレツが輝いていたから、自分でも作りたいと教えてもらった。

包丁を使うのは苦手だ。でも、オムレツを作るのに包丁はいらない。

ボウルに割り入れた卵をかき混ぜて、牛乳を加えた。さらにかき混ぜて、バターを溶かしたフライパンに液を流しこむ。

ここからは素早く動いた。熊野は静かに見守っていた。

白い皿に出来上がったオムレツをのせて、熊野に「どう?」と自慢した。


「へー、すごいじゃん。うまそう」

「でしょ? これしかできないけどね」

「オムレツが作れるなら、他のも練習したらできるんじゃないか?」

「んー、どうだろう」


料理が嫌いなのではなくて、料理する必要がなかったからしなかった。子供の頃は、母や姉とお菓子作りをしたこともあった。

作るのは楽しかったけど、大きくなるにつれて他にやりたいことができた。料理よりも別のことを優先させたから、やろうとも思わなかった。

でも、彼が褒めてくれるなら、できるようになりたい。

美味しいと食べてもらいたい。
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