優しくない同期の甘いささやき
聞いていたのが、バレてしまったようだ。気まずい……

どうして私は顔を出してしまったのだろう。


「また盗み聞きか?」

「違う。たまたま聞こえちゃったの」


両手をブンブンと横に振って、盛大に否定した。

熊野はフッと顔を緩めて、私の頭に手を置いて目を合わせた。

最近、この優しそうな目で見つめられることが多い。

好きだな、この顔。


「心配になった?」

「ううん、全然」

「へー、自信あるんだ?」

「うん、熊野が一番好きなのは私だもん」


言いながら、顔が熱くなってきた。


「そのとおりだな。俺が一番好きなのは、美緒だよ。美緒も俺が一番好きだろ?」


ここは会社の中だ。いつ誰がここを通るかわからない。そんな状況の中で何度も好きと言えない。

私は「うん」とだけ答えた。

熊野は肩を震わせて笑い、私の頭をポンと叩いた。

「かわいいな」と囁いて、廊下へと歩いていく。私は数秒その場に立ち尽くしてから、階段を降りた。

熱くなった頬を片手で仰ぎながら……。
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