優しくない同期の甘いささやき
顔を上げると、頬をほんのり赤くする彼の顔があった。

近づきすぎた……。


「わわっ、ごめん! うわっ……」

「おい、あぶなっ!」


慌てて後ずさった私は、椅子から落ちそうになる。

祥太郎が素早く私を支えたので、落ちはしなかった。

うん、落ちなかった。

とても助かったのだけど、この体勢は……。

爽やかなシトラスの香りの中に、微かな汗の匂いがまじるのがわかるくらいの距離に彼はいた。

私が落ちないように抱えていたのだった。至近距離で視線を合わせて、お互いハッとなった。

何度も確認するが、ここは会社だ。

人の目がたくさんある会社である。


「おお、仲良しだな。だけどな、イチャイチャするのは控えめにしとけよ」


後ろを通りかかったWeb課の課長に言われて、私たちはササッと離れた。

いけない、いけない。

元の位置に戻った祥太郎は、紙コップを持つ。


「で、なにしようとしたんだ?」

「汗臭いのかなと思って」

「は? まさか匂いを嗅ごうと?」

「うん、ごめんね」


私は苦笑して、肩をすくめた。祥太郎は口もとを緩めて「バーカ」と言った。
< 158 / 172 >

この作品をシェア

pagetop