優しくない同期の甘いささやき
わわっ、ヤバイ!

どうしよう、どこかに隠れなくちゃ。

辺りを見回すが、廊下に隠れる場所はない。

私は壁にへばり付いた。

壁化する私の背後を女性が通りすぎていく。おそらく、私の存在には気付いていない。

顔だけを横に向けて、小さくなっていく後ろ姿をそっと見た。

肩すれすれボブのふんわりとした髪が揺れていて、かわいらしい人。あの人、商品部の人だ。確か、私たちより二歳年下。

そんなことを思っている私の肩を誰かが叩いた。

ギクッと体が軽く跳ねる。

おそるおそる顔を反対に向けると、険しい顔した男がいた。


「おい、何してる?」

「あ、えっと、壁になる訓練をしてた」


コイツは今ほど女を振った男……熊野祥太郎(くまのしょうたろう)だ。

冷ややかな目で私を見下ろしている。

背が高いからって、何よ。

そんな目で見ないでよ。

身長180センチの熊野は、155センチの私をたまに小さいと言う。

自分は無駄に背が伸びただけのくせに

しかも、無駄に顔がいいから余計にむかつく。

こんな容姿だからモテるんだよね。改めて、熊野を品定めしていると目が合う。
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