8度目の人生、嫌われていたはずの王太子殿下の溺愛ルートにはまりました~お飾り側妃なのでどうぞお構いなく~2
 こうして、王都で起こった香水騒ぎは、幕を閉じようとしていた。
 ジャネットが公爵領に帰る日がやってくる。

「ジャネット嬢、気を付けるのだぞ」
「陛下、ありがたいお言葉、恐悦至極に存じます」

 結果として、近年疎遠だった公爵家と親交を結べたとして、フィオナの評判は上がっていた。

「待て、ジャネット」
「あら、オスニエル様」

 ロジャーのエスコートで馬車に乗りかけたジャネットを、呼び止めたのはオスニエルだ。

「どうされました?」
「思い出したことがあってな。俺とユーイン殿とは、あまり交流はなかったのだが、昔、一度だけ手紙をもらったことがあったのだ」

 渡されたそれには、ジャネットのことが書いてあった。
 ジャネットが気落ちしていること。どうか、彼女を嫌いで縁談を受けなかったのではなかったのなら、せめて彼女に非がないことを伝えてほしいと。

「どちらかといえば気弱なユーインが、こんなことを言うなど珍しいとは思ったんだ。しかし、当時の俺は、戦術のことで頭がいっぱいで、結局君に謝ることはなかった。すまないな」
「いいえ」

 彼の文字でつづられた自分の名前。それが残っているのはうれしかった。

「それと、これを」
「……これは?」
「ユーインの遺品だ。軍部に問い合わせて、なにか残っていないか確認してもらった。おそらくこれがそうだろうと」

 カプセルになっているペンダントだ。
 開けてみるとそこには、乾燥した花びらが入っていた。色褪せてやや黄色くなってはいるものの、きっともとは白い花だろう。
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