8度目の人生、嫌われていたはずの王太子殿下の溺愛ルートにはまりました~お飾り側妃なのでどうぞお構いなく~2
「……あの、失礼ですが、公爵令嬢は、オスニエル様とは親しいのですか?」

 なぜだか無性に胸が騒ぎ、ローランドはふたりの会話に口をはさんでしまった。

「ローランド、失礼だよ」

 普通、うしろで控えている護衛騎士が口を出すことなどない。エリオットがやんわり叱ると、ジャネットは「いいえ」と口をはさんだ。

「かまいませんわ。少し思い出話をしたい気分ですの。私が初めてオスニエル様とあったのは、まだこんな幼い頃です」

 ジャネットの手は、座った状態で腰のあたりとなる高さを指す。

「幼い頃から、この方が私の夫になる方だといわれて育ちましたの。私はお父様の意向で、王都の学校ではなく家庭教師をつけられていました。王都に来るのは、国王様の生誕祭や、公式行事の時のみで。でもその時にオスニエル様とは交流しておりましたのよ。私の髪は黒いでしょう? 父や兄はもっと茶色がかっていて、私の髪は、昔ながらの王家の髪色だと言われていました。オスニエル様は同じ色をしていたので、対になるのは決められた運命なんだなどと、夢見たことを思っていました。ですから、本当に縁談が持ち上がった時に、戦争が終わらないから結婚などまだ早いといわれるとは思っておりませんでしたの」

 ローランドは、唇をかみしめる。彼は幼馴染みであるフィオナにずっとかなわぬ思いを抱えてきた。そのせいもあり、ジャネットの話には、同情すべき点をいくつも感じてしまう。

「父は、それならば待たないと、領土の伯爵家に私を嫁がせました。予想外の相手でしたが、まあ幸せでしたのよ?」
「そうなのですか。ご苦労があったのですね」

 エリオットは微笑みながら、やんわりと話を流していく。だが、ローランドはだんだん苛立ちが募ってきた。
 オスニエルは勝手すぎるのではないだろうか。家柄もよく、幼い頃からの約束のあった令嬢との婚姻を、女性が適齢期になってから断るなどあり得ない。
 フィオナが輿入れした際には、内密に彼女を襲わせたこともある。
 たしかに自ら先陣に立ち、勝利を手にする軍神のような男であるのは間違いないが、その実、卑怯なところだってあるではないか。
 ローランドはオスニエルのことをなにひとつ信用していなかった。
 この女性がされたように、オスニエルの気まぐれにフィオナが傷つけられる日が来たら、絶対に許しはしない。
 和やかにエリオットとジャネットが話すうしろで、ローランドは固く心に誓った。

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