王子の盲愛
王子の報復
「行ってきます…」
新道は、自宅アパートを出ていく。

アパートを出て、振り返りアパートを見上げた。
ほんと、ボロいアパートだ。
「はぁー」
新道はため息をついた。

新道の両親は、駆け落ちをして一緒になった夫婦。
しかも父親は早くに亡くし、母親に育てられたのだ。
でも元々お嬢様だった、新道の母親。
夫が亡くなるまで働いたことがなかった、母親。
働きだしてもすぐに耐えられなくなり、辞めてしまってなかなか安定しない生活をしている。

新道が理世をいじめていたのも、理世が幸せそうで羨ましかったからだ。
中学二年までは、理世はいつも友達に囲まれていた。
そんな理世が羨ましくて、それが次第に……妬みに変わっていたのだ。

そしていつの日か新道は嘘をつくようになり、自分は“資産家のお嬢様”だと嘘で固めた自分を装い生きてきた。
同窓会であんな大胆な嘘をついたのもその延長だ。

新道は近くの定食屋で働いている。
大学に行く余裕なんてない、新道。
かといって、昔のクラスメートに万が一にも会わないようにしないといけない。
なので、目立たない場所に建っている所で働いているのだ。

定食屋に、団体客が来店してきた。
「いらっしゃいま━━━━━え……!!?」

「え?新道?」
「え?里麻?」
「新道…さん?」
「どうゆうこと?」
中学の時の、クラスメート達だ。

「なん…で…?」

「里麻、ここで働いてるの?
言ってたじゃん!
結婚は嘘だったけど、同棲してる人がいて専業主婦みたいなことしてるって……」
「え……それは…」

「また、嘘なんじゃね?」

クラスメートの一人が言った。

「え?そうなの?」
「そんなわけないでしょ!?
だって里麻、資産家のお嬢なんだよ?」
新道の友人が言う。

「でも…資産家だったら、それこそ八神様が知ってるじゃねぇの?知らないって言ってたじゃん!
八神様って、国内トップだし」
「そうだけど……
里麻、なんとか言ってよ!」

「そうよ!八神様は、トップクラスだから……
私、資産家って言ってもさすがにそこまでは……」
「そうだよね!」
ここでも新道は正直に言えず、嘘をつき続けたのだった。


「パーティー?」
「そうなんだよ。しかも!あの財前(ざいぜん)財閥だぜ!俺が通ってる大学で、仲良くなった奴が御曹司でさ!そいつの知り合いらしいんだ、財前」
クラスメート達が話している内容を、聞き耳をたてている新道。
「スゲーじゃん!財前っつたら、トップ10に入る財閥だろ?」

「あぁ!気軽なパーティーらしいから、お前等もどう?
友達、誘っていいって言われてんだ!」
「マジで!?」
「行きてぇ!」
「私も~!」
「玉の輿狙い(笑)?」

行きたい━━━━━
新道は、仕事も手につかなくなるくらいに聞き入っていた。
もしかしたら、そこでいい出逢いがあって本当にセレブになれるかもしれない。

「◯◯ホテルであるから、俺の名前を出してくれりゃあ入れるよ!」
< 33 / 53 >

この作品をシェア

pagetop