王子の盲愛
「うん。理世と放れられない」
「では、奥様もつれてはどうですか?」
「は?もっと、あり得ない。
あんな、男だらけの穢れた空間」

「男だらけって、女性もいますよ?」
「フッ…!あの子達、ほんとに女なの?
がっつき方、まさに肉食系の男だよ!」

それまで無表情だった、王弥。
フッとバカにしたように笑い言った。

「あーまぁ、がっつき方は…(笑)」
財前も苦笑いする。
「でしょ?」

「でもみんな、王弥様に会いたがってますよ」
「今までは、暇だったから行ってただけ。
今は理世がいるから、やだ!」
「そうですか……」

「それにさ……」
「はい」
「半端ないんだよね…」
「はい?」
「嫉妬心が」
「奥様ですか?」

「ううん。僕」
今までずっと、財前と目を合わすことなく理世のチャームを見つめていた王弥。
ここで、財前の顔を見て言った。

「王弥…様?」
財前が見る、初めての表情だった。

「理世は、僕の理世なの。
今だって、僕以外の人間と話してるって考えただけで吐き気がする。
相手が女なのに、こんなだよ?
男がいたら、もう……吐き気どころじゃないよ。
殺意が湧く」
「さ、殺意…です…か?」
「うん、半端ないでしょ?」

「そう…ですね……
…………でも、初めて見ました。こんな王弥様」
「は?」
「いつも冷静で、感情がないって言ってもおかしくないような人だったから」
「理世のことになると、冷静さなんてあっという間になくなるよ、僕」
「そうみたいですね」

「キャッ!!す、すみません!」
そこに、店員がコーヒーをこぼし謝る声が響いた。
「ちょっとーやだー!スカート汚れたし!」
客のスカートにかかったようで、店員は何度も平謝りだ。

「あーあ」
財前は苦笑いをし、王弥は何もないかのように煙草を吸っている。
派手にコーヒーがこぼれた為、王弥と財前の方までコーヒーがこぼれている。
財前は紙ナプキンで、近くだけ拭きだした。

しかし、王弥は完全無視だ。
これが本来の冷淡な王弥の姿。

「あ、王弥様」
「何?」
「靴に、コーヒーがついてます」
「あ、そう」
「拭いた方が……」

「別に必要ない。気にしない」

「申し訳ありません!ありがとうございました」
店員が謝りに来る。
「ううん。まぁ、次は気をつけなよ」
財前が少し微笑み言った。

「は、はい////」
財前の微笑みに、顔を赤くする店員。
そして王弥に向き直った。
「お客様も、申し訳ありませんでした」
「は?」
「靴……」
「気にしない」
「すみません!」
「だから!」
「え……!?」
「気にしない!!それよりも、早く向こうに行って?
目障り!!ただでさえ理世がいなくて不機嫌なのに、これ以上僕の気分に害をもたらさないで!」

そこへ、理世から電話がかかってくる。
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