偶然から始まった恋の行方~敬と真理愛~
「真理愛、ごめん」
診察室から出てきた敬が、まっすぐに私のもとにやって来る。

その先の言葉を聞かなくても、私にはわかってしまった。

「仕事に戻るのね」
「ああ」

敬が白衣を着て現れた時点で、予想していた。
でも・・・

「本当にごめん」

「・・・」
私は返事をしない。

週に一度しかないお休みを潰すくらいだから、よっぽどの事情があるんだろうと想像はできる。敬だって出かけるのを楽しみにしていたはずだから、どうしても避けられないことなんだろう。それでも、笑って「大丈夫気にしないで」なんて物分かりのいい女子にはなれない。

「今度必ず」
「もう、いい」
「真理愛」
悲しそうな敬の顔。

私はなんて子供なんだろう。
敬だって辛いはずなのに、それを気遣うこともできないなんて・・・最低。

「帰ります」
自分に言い聞かせるように立ち上がった私に、
「タクシー乗り場まで送るよ」
敬が腕をとる。

「いいから、仕事に戻ってっ」
私は敬の腕をほどき、待合を駆け出した。
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