偶然から始まった恋の行方~敬と真理愛~
きっと、嫌われて絶対に歓迎なんてされないと思っていた。
それでも敬以外頼るあてのない私は、どんなに嫌われてもお世話になるしかないんだと覚悟してここに来た。
それなのに・・・

「真理愛さん、お腹すいているでしょ。少しでもいいから食べなさい」

いつの間に準備をしてくださったのかおにぎりとお味噌汁が出てきて、涙が込み上げる。

1人暮らしを始めて、家族のありがたみが身に染みた。
黙っていてもご飯を用意してくれるお母さんがいて、帰りが遅ければ心配してくれるおじさんがいて、困ったら相談に乗ってくれるお兄ちゃんまで。
本当に私は幸せ者だったと今なら思える。

「赤ちゃんは私が見ているから、食べてしまいなさい」

勧められるままおにぎりを口にして、お味噌汁を一口。

「はぁー、美味しい」
思わず声が出た。

「よかったわ。そう言えば、この子のお名前は?」
奥様が敬也の頭をなでながら聞くから、
「敬也です」
と答える。

「そう、たかやくん」
とっても愛おしそうに名前を呼ぶ奥様。

「敬也のタカは敬うって書きます」
「敬君の敬ね」
「はい」

1人で勝手に生んだくせにどうしても敬の字を入れたくて悩んで悩んでこの名前にした。
たとえ親子と名乗れなくても、敬の子供であることを忘れたくなかった。

「じゃあ、この子は小鳥遊の跡取りね」
「は?」
意味が分からず口を開けた。
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