偶然から始まった恋の行方~敬と真理愛~
人生なんていつどこで何が起きるかわからない。
昨日までエリートだった人間が明日には犯罪者になることもあるし、信じていたいた人が一瞬で敵に回ることもある。
ある日突然大切な人を失うことだってある。
救命医なんて誰よりも生と死の境界線近くにいるはずなのに、自分の身に降りかかるまでそのことに気が付かなかった。

医大を卒業し、医者になり、『先生』と呼ばれることにも人を使う立場にも慣れ、いつの間にかおごりがあったのだと思う。
自分ではそんなつもりは無くても、小さなエリート意識はきっとあった。
そんな時、あの事件が起きた。

2年前の毒物混入と傷害事件。
あのバーベキューの主催者は俺だった。
場所を手配したのも、事件の原因となったワインを用意したのも、加害者となった塙くんを呼んだのも、被害者の環を強引に誘ったのも俺。
俺がいなければ、あの事件は起きなかった。

「敬、お前も被害者だろ?」
「そう、だな」

世間がどう見ているか知らないが、俺は被害者だ。
でも、塙くんばかりが悪いわけでもないと今は思える。
苦しみもがいていた彼の気持ちを汲んでやれなかった俺たちの責任だってある。
俺にもう少し配慮があれば、塙くんの気持ちに気づいてやれれば、事件は防げたのかもしれない。
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