星名くんには秘密がある
「結奈ちゃーん! 今日はせっちー連れてきたよ」

「かっしー、久しぶり。思ったより顔色良いじゃん。あ、マスカット持ってきたけど食べる?」

「……ありがとう、ございます」


 小さく頭を下げて、彼女たちによそよそしい態度を取る。病室が明るくなる声で、良い人たちなのは分かるけど、分からない。


 心の中心がクッキーの型でくり抜かれたみたいに、高校生の記憶だけなくなっていた。


 医師の先生が言うには、事故によるショックで記憶障害を起こしているらしい。一時的なものと思われるが、もしかするとこのまま戻らないかもしれない。

 日常生活に支障をきたさないけれど、何度も足を運んでくれる彼女に申し訳なくて。
 高校生の頃の話を聞かせてもらうけど、物語を読んでもらっているみたいでピンと来ない。

 何か大切なものを忘れている気がするけど、思い出せない。
 優しく微笑みかけて、私の手を引いてくれるーー彼は、誰なんだろう。
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