星名くんには秘密がある
入院して2週間が過ぎた。
車椅子で動けるほどに体力は回復したけど、記憶は戻らないまま。
体に異常はないため、来週には退院出来ると告げられた。嬉しさよりも、晴れない気持ちの方が強い。
お姉ちゃんに付き添われながら、病院の中庭を散歩する。手の中にある緑のお守りを眺めながら、ぽつりとつぶやいた。
「これ、龍が付いてる。おばあちゃんがくれたのと似てるね」
車椅子を押す手を止めて、お姉ちゃんが覗き込みながら言う。
「それ白髭神社のでしょ? なら同じお守りだよ。結奈が買ったんじゃないの?」
「ううん、違うと……思う」
救急車で運ばれた時、これを握りしめていたらしい。全く身に覚えがなかったけど、なんだろう。懐かしさが込み上げて来て、離してはならない気持ちになる。
飲み物を買って来るから待っててと、私はひとり大きな木の下に残された。爽やかな空の香りがして、ゆっくりと瞼を閉じる。
『僕らが別れた理由は、心のすれ違いじゃいないよ。ずっと、僕の中には結奈ちゃんがいた』
脳裏に浮かんだ柔らかな声。桜が舞い散る場所で、誰かが私へ向けた言葉。
忘れたくない人がいるはずなのに、顔が霞んで思い出せない。
ーーあなたは。
「結奈ちゃん」
車椅子で動けるほどに体力は回復したけど、記憶は戻らないまま。
体に異常はないため、来週には退院出来ると告げられた。嬉しさよりも、晴れない気持ちの方が強い。
お姉ちゃんに付き添われながら、病院の中庭を散歩する。手の中にある緑のお守りを眺めながら、ぽつりとつぶやいた。
「これ、龍が付いてる。おばあちゃんがくれたのと似てるね」
車椅子を押す手を止めて、お姉ちゃんが覗き込みながら言う。
「それ白髭神社のでしょ? なら同じお守りだよ。結奈が買ったんじゃないの?」
「ううん、違うと……思う」
救急車で運ばれた時、これを握りしめていたらしい。全く身に覚えがなかったけど、なんだろう。懐かしさが込み上げて来て、離してはならない気持ちになる。
飲み物を買って来るから待っててと、私はひとり大きな木の下に残された。爽やかな空の香りがして、ゆっくりと瞼を閉じる。
『僕らが別れた理由は、心のすれ違いじゃいないよ。ずっと、僕の中には結奈ちゃんがいた』
脳裏に浮かんだ柔らかな声。桜が舞い散る場所で、誰かが私へ向けた言葉。
忘れたくない人がいるはずなのに、顔が霞んで思い出せない。
ーーあなたは。
「結奈ちゃん」