メール婚~拝啓旦那様 私は今日も元気です~

「晴夏は小さくて可愛いものが好きだろ?灯里ちゃんのことをすっかり気に入って、このまま連れて帰りたいと大騒ぎだったよ」

女性にしては大柄な晴夏は、昔から小さくて可愛いものに目がない。子猫や子犬、小さな子どもも大好きだ。安西は灯里を写真でしか見ていないので、実際のサイズ感がわからないが、確かに小柄なイメージはあった。

安西はコホンと咳払いをして、なんでもないように聞いてみた。

「あいつは小さいのか」

「灯里ちゃん?かなり小さいな。身長は150半ばくらいじゃないか。頭の上にいつも髪の毛を団子にして乗せてるのは、少しでも背を高く見せたいからだった言ってた」

そうか。いつもあの髪形なのか。
安西が知ってる唯一の髪形がいつもの灯里だと聞いて、なんとなくホッとした。

「なんだ?お前、興味があるのか?」
ニヤニヤと笑う今西に、「そんなわけあるかっ」と食い気味に答えた。

「吉永村長のところに行く手はずを整えてくれ」
キリッと仕事の顔を作って安西は指示を出す。

「社長直々に乗り出すわけか。奥様の故郷には手厚いねぇ」

またニヤッと笑う今西を無視して、サラッと答える。
「最初の約束だからな。優先的に村おこしに取り組むというのは」

吉永村長とは事前に話をしたが、大々的な村おこしは希望していないということだった。主産物の栗をアピールして、「栗の村」というイメージをつけていきたいそうだ。
だから村の名物を何か作って、それを売り出していく路線でいこうと思っている。幸いにも親戚が菓子屋なので、菓子職人のいとこを伴って村を訪問する予定にしていた。

「わかった。同伴してくれるのは新次郎さんだったな。みんなのスケジュールを合わせて日程を組んでおくよ」

部屋を出ていく今西を見送って、タブレットに灯里の写真を映し出す。

兄妹の縁を切ると喚いていた晴夏の怒りは思いの外持続している。翌日にはケロっとしているかと思っていたのに、あの電話以降一切連絡がない。晴夏が首を突っ込んできていい方向に転んだ例がないので、灯里と接触をしたと聞きうんざりした。

「晴夏には気をつけろよ」
タブレットに念押しをすると、写真の灯里はいつもどおり笑っていた。


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