契約結婚のススメ

 秋晴れの空のもと、広がるのは美しいベイビュー。

 ホールではオペラ歌手が歌声を披露し、オープンデッキではマジシャンが楽しませている。

 これぞ豪華クルーザーならではのパーティーに、客の笑顔があちこちで弾けている。

 今日は私と一貴さんの結婚披露パーティー。

 半年間の婚約期間を経て、いよいよ迎えた晴れの日だ。

 私たちは、ひと月ほど前に入籍を済ませ一週間前には一緒に住み始めている。

 南城家といえば海運王と呼ばれる一族であるし、一貴さんは南城郵船の専務執行役員なので、来賓もそうそうたるメンバーだ。

 経済誌を賑わせる有名企業の重役や銀行の頭取と名のつく人々。ニュースで見かける政治家など、政財界の重鎮が揃い踏みである。

「妻の陽菜です」

「かわいらしい花嫁ですね」

「ありがとうございます。ふつつか者ですが、どうぞよろしくお願いいたします」

 満面の笑みを振りまいてロボットのように同じ挨拶を繰り返す。

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