契約結婚のススメ
 洸は美加が嫌いだが、正面切って嫌な顔をするほど失礼な男ではない。たまたま通りかかった知人に声を掛け、うまいこと逃げた。

 逆に女には誰にでも優しい仁が、洸が空けた席を美加に「どうぞ」と勧める。

「ありがとう」

「美加が一貴の結婚相手と親戚だったとは。どういう親戚なんだ?」

「私もびっくりよ、私と陽菜さんはハトコになるのよね、一応」

 一応とつけたのは血縁ではないからだろう。美加の母親が希子さんと従妹らしい。

「世の中狭いな」

「ほんとねー」

 ちらりと俺を見つめる美加の意味ありげな視線を送ってくる。

 俺は知らぬ顔でやり過ごした。

 少しだけ話をして立ち上がる美加を、周りの客らが一斉に見た。
 さすが売れっ子女優だけはある。

「なあ一貴。美加となにかあったのか」

「ん? なにか言ってたのか?」

「ああ。〝一貴は私のために結婚したの〟ってさ」

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