契約結婚のススメ
「結婚指輪か」

 仁が横から俺の左手を見ていた。

「女除けになるぞ。お前も結婚しろよ」

 仁は、にやりと口もとを歪める。

「俺はまだまだウエルカムさ。純情を捧げる相手はいない」

「純情? 仁、お前にそんなものあるのか」

 俺にもないけどな。

 見透かすように、したり顔の洸は「ハハッ」と笑う。

「お前たちに純情なんてあるわけがない。この結婚にはわけがあるに決まってる」

「洸、お前も失礼なやつだな」

「じゃあ言ってみろ。なぜ結婚を決めたんだ」

「そりぁ決まってるだろ。彼女が気に入ったからさ」

 仁は肩をすくめ、洸は眉をひそめる。

 嘘じゃない。俺は陽菜を気に入ったんだ。

 それが愛とか恋じゃないとしてもな。

 ふと甘い香水の香りがした。

「あら、皆さんお揃いで」

 話に割り込んできたのは柳美加。俺たちの同級生で売れっ子の女優。そして南城郵船のイメージキャラクターのひとりだ。

 挨拶も早々に洸が席を立つ。

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