カリスマ美容師は閉ざされた心に愛をそそぐ


   “ この俺が ”

 恥ずかしいだろう…、はぁ~~ため息


 彼女がこっを見てる、腹の音で気付くとは…。

 俺は何も無かったような顔で、軽く咳払いをしながら。


 「今日はもう終わり…」

 彼女も何も聞かなかったような顔で。

 「少し速いのですが今日は売り切れで、すいません」

 ペコリと頭を下げる。


  売り切れ!!まじかよ。


 “ぐぅ~〜”ま、た、か、よー。

 「ちょっと待っていて下さい!1分、1分です」


 パタパタと店の中に急いで戻って行く。


 ハァハァと息を荒くしながら…

 「唐揚げ弁当、この時間には重いかもしれませんが食べて下さい!」


 何だこのカワイイ笑顔、くりっとした愛らしい目、形の良い唇。もっと顔をハッキリ見たい、あぁ〜彼女の帽子が邪魔だ!

 顔をしっかり見たい、マジ帽子を取り上げたい!!


 なのに、俺は出来るだけ冷静に。


 「代金支払うよ」


 「いえ余り物ですし、それにレジも閉めてしまったので、良かったら貰って下さい」 

 さり気ない優しさに負けて受け取り、その代わり名刺を渡す。


 「あの、美容室の方でしたかぁー」

 俺?忘れられている??、この俺が。

 「いつも、注文ありがとうございます」


 鈴の音のような声、なんかこっちが癒やされる。


 「今度お礼に俺にカットさせて」

 顔の前で手を左右に振りながら。

 「お礼なんて、とんでもない!こっちがお世話になっているのに。」
 

 『月ちゃーん、何してるの風邪引くわよー』


 「は〜い!」


 「温かいうちに食べて下さいね」と頭を下げ店の中に入ってしまった。



 なんか軽〜く、振られた気分だ。


 マンションへ帰り、弁当がうまい!


 いつもゆっくり食べている時間なんて無いからなぁー。また味わって食べたい。


 名前は、ひな、かぁー、なんかそんな感じだな。絶対、月の髪をカットしてみせる。


 絶対にだ、逃がしたくない!

 何故か強く思い、言葉を交わしたのも今日が初めて、みっともない姿を見せたのにも関わらず、自然体の自分をさらけ出せたことに、不思議と嫌ではなかった。   


 普段からイメージを大切にしている自分なのに。


 彼女の纏う空気とでもいうのか、俺の心を温められたそんな気分。


 そんな女性は初めてだ。

 


 



 ◇心臓がバクバクしてる!深呼吸しても落ち着いてくれない…。


 声が…同じ…


 彼の声が耳に張り付いたまま、離れない。耳を塞ぎじっと耐えながら、自分の殻に閉じこもった。




 

 


 


  
 

 


 





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