たすけて!田中くん
プロローグ
その日は、早く帰ってドラマの再放送をみようと思っていた。
ちょっとだけ浮かれていた私に、前方から派手な見た目の男たちが近づいてくる。
そして、私を指差して一言。
「ねえ、そこの君」
名前すら知らない相手に不躾に声をかけられて顔を引きつらせた。
「ちょっと話があるんだけど」
制服を着崩した軽薄そうな見た目の男をじっと見据える。用件を待っていると思わぬ言葉が飛んできた。
「今から敦士の彼女になってくれない?」
「はい……?」
よくわからず、首を傾げる。突然そんなことを言われても理解が追いつかない。
「あ、〝はい〟って言ったよね」
「いや、そういう意味の〝はい〟じゃなくて」
「そういうことで、よろしく〜!」
私の了承も得ないまま、強引に決められて男たちは去っていく。
取り残された私は呆然と立ち尽くす。
今私、詐欺にあった。
「だ……誰なの、敦士!」
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