たすけて!田中くん
プロローグ



その日は、早く帰ってドラマの再放送をみようと思っていた。

ちょっとだけ浮かれていた私に、前方から派手な見た目の男たちが近づいてくる。


そして、私を指差して一言。



「ねえ、そこの君」

名前すら知らない相手に不躾に声をかけられて顔を引きつらせた。


「ちょっと話があるんだけど」

制服を着崩した軽薄そうな見た目の男をじっと見据える。用件を待っていると思わぬ言葉が飛んできた。


「今から敦士の彼女になってくれない?」

「はい……?」

よくわからず、首を傾げる。突然そんなことを言われても理解が追いつかない。



「あ、〝はい〟って言ったよね」

「いや、そういう意味の〝はい〟じゃなくて」

「そういうことで、よろしく〜!」


私の了承も得ないまま、強引に決められて男たちは去っていく。

取り残された私は呆然と立ち尽くす。




今私、詐欺にあった。






「だ……誰なの、敦士!」





< 1 / 232 >

この作品をシェア

pagetop