皇子の婚約者になりたくないので天の声に従いました
2.天の声
 ミレーヌは幼い頃から天の声が聞こえていた。天の声と言ってもミレーヌがそう呼んでいるだけで、本当に天から聞こえる声ではない。ミレーヌの中のもう一人の声、と言った方が正しいのかもしれない。ミレーヌの心の中に直接語り掛けてくる声。それが天の声なのである。
 
 ――ミレーヌ、今日は天気がいいわね。
 とか。
 ――ミレーヌ、この本は面白かったわね。
 とか。
 ――ミレーヌ、この問題は難しいわね。
 とか。
 ――ミレーヌ、このお菓子が好きでしょ。
 とか。

 本当にどうでもいい些細な声。その声が、ミレーヌの物心がついたときから聞こえていたのだ。

 それに対して、ミレーヌも心の中で問いかけるという技を身につけた。
 昔からその声が聞こえていたからそれが当たり前だと思っていたのだけれど、それとなく兄に問うと、不思議な顔をされた。だから、この声が聞こえるのは自分だけなのだろう、とそう思った。

 ミレーヌが天の声に対して心の中で問いかけるようになったのは、本当に声に出してしまい大きな声で独り言を言ってしまうと、頭が寂しがりやの人と周囲から思われて、父も兄も文字通り飛んできてしまうから、である。昔から父も兄もミレーヌのことを溺愛していた。それは今も継続中。
 そのため、天の声と話をするときは声に出さないようにして話す必要があった。
 いつもそっと心の中で問いかける。


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