君との恋の物語-Blue Ribbon-

始まり

夏休み中ずっと準備してきたオーディションも無事に終わり、新学期が始まった。

私個人で言えば、彼氏ができたりバイトを始めたり、色々なことが一気に始まって、ワクワクしている。

恒星は本当に素敵な人で、私のことをすごく大事にしてくれると思うし、バイト先は馴染みの楽器屋さんだから、全く知らないお店で働くよりはずっと安心ね。

それに、音楽に近いところでバイトができるのもとってもありがたい話。

私は、せっかくだから色々な楽器について勉強してみたいと思っている。

今日は、初めてバイトに行く日だった。

基本的に、私がバイトに入るのは金曜の夜と、土日は空いていれば1日入ることもできる。

後は、選定会というプロの先生方に文字通り楽器を選定していただく会が週末に入っていると、平日にもう1日入ることもできる。

この選定会はしょっちゅうあるので、基本的には平日に2日はいると思っていていいみたいだった。

ガッツリ働いてガッツリ稼ぐというのはできないけど、練習のために沢山時間を使いたい私にとってはちょうどいいと思っている。

そんな今日は木曜日。

今週末に選定会があるということで、人手が必要みたいだった。



さて、頑張ろう。

今週の選定会はアルトサックスのようで、初出勤の私は挨拶もそこそこに倉庫にある大量の楽器を運んだ。

運んだら、今度はひたすら組み立てる。今回は全部で30本。

シリアルナンバーがわからなくならないように、ケースも整列させておく。

単純作業ではあるけど、これをもう1人のパートさんと2人がかりで行い、終わる頃には退勤時間が迫っていた。

『結ちゃん、初日からごめんね!大丈夫だった?』

と言って店長が部屋に入ってきた。

「はい、宮本さんに、丁寧に教えていただきましたし、楽器触るの好きですから。」

宮本さんというのは、今日一緒に作業していたパートさん。

『そう、ならよかった。初日から任せっきりでごめんね。まぁでも、結ちゃんなら大丈夫だろうと思って。楽器の扱い方だって、わかってると思うし。ね、宮本さん!』

『はい、とってもよくやってくれましたよ!』

「ありがとうございます!」

初仕事で好印象なのは、正直ありがたい。私は、素直に頑張ろうと思った。

『選定会の仕事は、楽器が違っても大体は今日と同じだし、下半期の日程はもう出てるから、事務所のカレンダーで確認してみてね!あ、でも、もちろん学生なんだから学校や練習を優先してね!』

「ありがとうございます!」

練習に優先でシフトを組ませてもらえるなら、こんなにありがたいことはなかった。



閉店後の作業も終わり、今日は退勤になった。

次回のシフトの時に、選定会以外の業務を少しずつ教えていただけるみたいだった。

何はともあれ幸先いいスタートになったかな?

私的には、今日みたいな楽器を組み立てる作業も嫌いじゃないし、やっぱり楽器屋さんの近くにいられるのは嬉しいことね。

恒星も、本当は楽器や音楽に関係するところでバイトしたいんじゃないかな?

今度聞いてみようかな。


1人電車に乗って小山駅へ。

今日は少し疲れたので、席に座ってからは目を閉じてゆっくりしていた。

ほんと、夏休みはオーディションのことばっかりだったな。

まぁ、そのおかげで恒星とは仲良くなれたんだし、後悔はまるでしてないけど。

でも、せっかく沢山友達ができたんだし、友達とも遊びに行きたいなぁ。

何か、企画しようかな…?

今は、新学期が始まったばかりで少し余裕がある。

11月の初めは学園祭があるし、12月にはAブラスの本番、年明けには後期の演奏試験って考えると、もう思いっきり遊べるのはここだけなんじゃないかな…?

思い立ったら即行動!ってことで、私は、入学当初から仲良くしてるフルートの森屋恭子にメールした。

まずはその子の反応次第かな…?

【お疲れ!ちょっと相談があるんだけど…!皆、シルバーウィークって忙しいかな?夏休み明けで言うのも変なんだけど、ちょっと大人数で遊んでみたいんだよね。】

すると、すぐ返信がきた。

【いいじゃん!大人数ってことは、バーベキューとか??楽しそう!!ここだけの話、皆あそびたいと思ってるだろうけど、結ちゃんがオーディションに向けてすごく頑張ってるみたいだったから、皆声かけにくかったみたいだよ!だから、逆に結ちゃんから声かけてくれたら喜ぶと思うよ!】

そうなの?

なんだか皆に申し訳ないなぁ。

でも、集まってくれそうだし、ここは素直に計画しようかな

なんて考えていたら続いてもう一通のメール。

恭子からだった。

【さっきの件だけど、せっかくだから、打楽器の彼も呼ぶのはどうかな?樋口君、だっけ?】

なんとまぁ…私が知らない間に広まっていたのねw



と言うことで、次の日の放課後に早速食堂に集まることになった。

今いるメンバーは、恭子と、クラの志賀友香、サックスの橋本恵と私。

もちろん議題はシルバーウィークについて


『バーベキューなんて絶対楽しいやつじゃん!やろうやろう!バイトのシフトだって、みんなまだ大丈夫でしょ?』

こう言ったのは友香

『うーん、シフトは出しちゃったけど、まだ間に合うと思う!せっかくだし、話してみるから、今日のうちに日程だけ決めちゃってもいい?』

とめぐ。

『うん、日程さえ決めちゃえば、あとはスムーズだもんねっ!あと、他に誰呼ぶ??』

と恭子。

話し合いはとてもスムーズに進み、1時間も経つ頃にはほとんどのことが決まっていた。

メンバーは男子を含む計8人。

男子のメンバーは恒星が集めてくれることになった。

というのも、どうやら私と恒星のことは既に噂になっていたようで、皆知っていた。

その流れで、それなら男子は恒星に集めてもらったらどうかということになった。

恒星とのことは隠すようなことではないし、かと言って自分から言うことでもないので、こう言う形で皆に知ってもらえたのはよかったと思っている。

幸い、大学の近くにバーベキュー場がある大きな公園もあるし、買い出しができる大きなスーパーもある!

なんて恵まれた環境wとみんなで盛り上がった。



「なんだか、巻き込んじゃってごめんね。」

恒星と一緒に帰っていると、必然的に話はバーベキューのことになった。

『いや?全然。ちょうど俺も大人数で遊びたかったし』

そうなの?

『夏休みはほとんどオーディションの準備だけだったからな。』

やっぱり。

「同じこと考えてた。ほんと、大変な夏休みだったもんね。」

『だな。だけど…』

「得るものも大きかった。でしょう?」

恒星は少し笑った。今日も素敵ね。

『うん。結と、付き合うこともできたしな。』

そう言って2人で笑い合った。

こう言う時間があるからこそ、夏休みは頑張ってよかったと思える。

正直、あれだけ努力したのにもしオーディションに落ちていたり、告白に失敗していたら…立ち直れなかったかも。

でもまぁ、関係ないわ!受かったし、告白も成功して今付き合えてるわけだし!



あ、そうだ。

「そういえば、バーベキューに呼ぶ男子は、決まった?」

すると恒星は、ちょっと意外そうな顔をした。

?なんだろ?

『うん、決まったよ。トランペットの高橋と、その友達がいいと思ってる。あとは、トロンボーンの鈴木かな。』

鈴木君はともかく…

「高橋君?ってあの、高橋君?」

いや、トランペットに高橋という人は1人しかいないんだけど…

『そう、あの高橋!』

え?そんなに仲良しだっけ?

「なんでまた?いや、全然嫌とかじゃないんだけど、」

単純に、なぜ?

『あぁ、えっと、まぁ、当日、行けばわかるよ!多分。』

??

「んー?なんか、怪しい。」

いやほんと、怪しい…w



その後、会場の予約、会費の設定、買い出しの担当、集合時間、集合場所なんかを決めていった。

皆の反応が良かったおかげで何一つ滞ることなくスムーズに進んだ。

皆本当に楽しみにしててくれたんだなぁ。

と思うと、思い切って企画して良かったなと思う。

ありがとね、皆。



こうして迎えた当日。

私と恒星は、先に飲み物の買い出しを済ませてから皆と合流した。

これは、恒星が車を出してくれたので、だったら重たい飲み物はこっちで先に買っていこうということになったのだ。

公園近くの大型スーパーに行くと、皆もう集まっていた。

「おまたせ!」

『んん、飲み物ありがとね!じゃぁ早速行こう!』

結果、集まったのは女子が私と、恭子、友香、めぐ。

男子が恒星と、高橋君、高橋君の友達の原君、鈴木君だった。

自己紹介はひとまず後にして、買い出しを済ませた。

見れば男子とも結構話せてるし、いいかも。

それもそのはず、今日の8人は全員吹奏楽の授業で一緒なので、話したことはなくてもお互い顔くらいはみたことあるはずだった。



公園に着いたら、火を起こしたり、材料を切ったり串に刺したり、全員で準備をした。

恒星は、本当に器用で、火は1人で起こしてしまったし、包丁の扱いにも慣れているのか、材料を切るのも早かった。

『結ちゃんの彼氏、すごいね!なんでもできるんだ!』

そう言ったのは友香。

「実は、私も初めて知ったの!こんなになんでもできると思わなかったわ!」

そう言って2人でクスクス笑った。

あぁ、本っ当に楽しい!!もう何年もこんな風に遊んでなかったような感覚だった。

恒星は、鈴木君と原君と一緒に切った材料を串に刺し始めていた。

あれ?高橋君は?

高橋君は、トランペットの男の子。よく言えば優しそうな、悪く言えば気の弱そうな子。

女々しいとかではないんだけど。

なんて考えながらそれとなく当たりを見回していると…。

なんと!めぐと高橋君が仲よく2人で作業している。

なるほど…もしかしてこのために高橋君を呼んだのかな…?

と思ったら視線を感じたので恒星の方を見た。




すっごくニヤニヤしている。w

なるほどねw

まぁ、この会をきっかけに誰かが仲良くなってくれるのは素直に嬉しいからいいか!




準備もできたので、乾杯することに!

『結ちゃん!音頭とって!』

え?私?

『うんうん!ここは結ちゃんだね!』

などと言われ、恒星を見ると、頷いてくれたので…

「OK!じゃぁ、皆コップ持った?」

「皆、今日は集まってくれてありがとう!大人数で遊びたいなって思って声を掛けたら、揃って賛成してくれて素直に嬉しかったです!この会をきっかけに、仲良くなれる人たちもいると思うので、今日は思いっきり楽しみましょう!乾杯!!」

『かんぱーい!!』




なんか、青春してるわw

乾杯する頃には、皆すっかり打ち解けたようで、全員が楽しそうにしていた。

男子がいることもあって、あれだけ大量に買い込んでいた食材は綺麗になくなり、その後は皆座って語り合うような形になった。

学校のこと、授業のこと、音楽のこと、高校生の時のこと、昔の恋の話、この大学を選んだ理由、専攻の楽器を始めたきっかけ、将来のこと。

8人も集まれば色んな話になったし、共感できることもたくさんあった。

そりゃそうだよね、皆音楽が好きで、この大学を選んだんだし。

すごく楽しかったし、またやりたいなって思った。

そっか、私、大学でも仲間ができたんだなぁ。

大学生活も、後4年はない。

今日みたいな日も、大切にしたいな。



帰り道。

恒星が車で送ってくれるというので甘えることにした。

私は、今日気になったことを聞いてみた。

「ねぇ、めぐと高橋君、いい感じだったよね?」

恒星はまたニヤニヤしていた。何よw

『うん、かなりいい感じだったな』

「わかってて高橋君を呼んだの?」

すると、思い出したように言う。

『あぁ、それね、俺はむしろ、高橋を呼んで欲しくて俺に人選を任せたんだと思ってたんだ』

ん?

「どう言うこと?」

『橋本さんと高橋が仲良いのは知ってたんだけど、どうも2人とも消極的で、学校では仲良いけど外であったりはしたことないみたいなんだ。だから、結や周りの友達はそれを知ってて、2人の仲を取り持つために、男子を含めた会にしたんじゃないかと思ったんだ。』

『で、高橋に直接声を掛けにくいから、俺経由で声を掛けてくれっていうフリなのかと思った』
と言ってニヤニヤしている。

っていうか
「そんなことまで考えてくれてたの?私は、めぐが高橋君と仲良いって全然知らなかったから、びっくりしたよ!」

『だと思った。でも、いいきっかけになったんじゃないか?付き合うかどうかは、わからないけど。』

「うん、ありがとね。色々考えてくれて!」

『どういたしまして!恋愛が始まる瞬間てなんか好きなんだよな!』

と言ってまたニヤニヤしていた。w

まったくw

それにしても、恒星って本当にすごいのね。

周りのことを本当によく見てる。

私の友達のことで、しかも私が気づかないことにまで気づいてるんだもん。

本当、自慢の彼氏よ。

私は、そんな自慢が彼氏の運転する車の助手席にいられることが誇らしかった。





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