ひとりぼっちの花娘は檻の中の竜騎士に恋願う
 スイレンという名前は異国の花の名前なのだと、亡くなってしまった両親は言った。彼女の母親もこのガヴェアの王都で瑞々しい生花を籠に入れて売り歩く花娘達の一人だったので、その変わった名前の由来も大人になるにつれ納得が出来た。ガヴェアは魔法の資質で全てを問われる国だ。両親を亡くし一人になってしまってせめても母親の得意な花魔法の資質を受け継いだのは彼女にとって良かったことなのだと思う。

「スイレン、今日は赤い花と白い花をおくれ」

 食堂で飾る花を毎日朝買ってくれる宿屋の女将さんは常連だ。毎朝、大きな花籠を持ったスイレンがこの通りを通る頃に待っていてお釣りの心配がないよう、丁度のお金を渡してくれる。事情があってこの王都名物の花娘の一人なのに満足に着飾ることも出来ない、スイレンのことを心配してくれてとても優しい人なのだ。スイレンは慌てて籠の中の花を数え、仕上げに少しでも長持ちする魔法をかけて手渡した。

「女将さん、いつもありがとう」
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