【5/10書籍2巻3巻同時発売】ひとりぼっちの花娘は檻の中の竜騎士に恋願う【コミック3巻発売中】
 リカルドはただ見つめるだけで、何も言わなかった。すこしだけ、そう少しだけ表情が動いたような気もしたスイレンはそれは勘違いだと頭を振った。

 じっと見つめるだけの彼をちょっと驚かせてみようかと、悪戯心の沸いたスイレンは、彼の目の前に魔法の花を一輪咲かせた。

 種から作られる生花ではなく、魔法の花は時間が経つと跡形もなく消えてしまう。リカルドは空中に浮く花を見て目を見張ると、スイレンのことをじっと見た。

 自分のことを見てくれた嬉しさにスイレンは調子に乗っていくつかの花を彼の周りに咲かせた。彼はふわふわと浮かぶ花を信じられないような表情でじっと見ている。

 その時いくつかの荒々しい足音を聞いたスイレンは、はっとして身を翻した。

(私を見てくれた! 嬉しい!)

 走った勢いで舞ったはなびらがいくつか道に落ちて、いくつかの花がダメになってしまったけど、それがもう全く気にならないほど、スイレンの心には喜びが満ちていた。

 その日の仕事が終わって、また叔母のマーサに役立たずと罵られ、狭くて暗い小屋に一人でも、心は浮き立っていた。ほとんど無表情なのにすごく驚いていることはわかった。

 隣国ヴェリエフェンディでは、古い魔法はどんどん衰退していってしまっているらしい。花魔法はそれだけでお金を稼げる程ではないけれど、魔法大国と言われるガヴェアでも使える人が少ないから、きっと彼は初めて見たんだろう。
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