離婚するはずだったのに記憶喪失になって戻ってきた旦那が愛を囁き寵愛してきます
 …… けれども……、 彼女は何故か、片眉を上げて唇を歪ませている。

「ぜんっ〜〜〜〜ぜんっ、ダメね!! 」

「お気に、召しませんでしたか? 」

 眉毛をハの字にして、鏡越しに彼女を見る。

「貴方それでもプロなの?! ちょっと、それ、貸しなさいよ! 」

「え?! 」

 言うが早いか、白鳥さんは私からメイク道具を取り上げると、自ら化粧直しを始めた。 

「ちょ、ダメですよ! あっ、嘘、そんなに着けたらっ! あ、ああ! わああああああぁぁーーーーっ!! 」

 私もチーフもスタッフ達、そして蓮斗さんまでが、驚きで、目をまん丸にして、沢山の化粧品で塗りたくられ、どんどんと変わって行く、白鳥さんの顔を見つめた。

「はわわわっーーーーっ!! 」

 慌てる私に、

「スゲー美的センスだな…… 」

 呆れるチーフ、

「あ〜あ……、悪女が悪魔に…… 」

 毒を吐くスタッフに、

「流石、結菜、やる事が大胆だな」

 子供の様に、あどけなく笑う蓮斗さん、

「完璧だわ!! 」

 自画自賛の、白鳥さん。

 折角のナチュラルメイクは、これでもか! と、ファンデーションを塗りたくり、アイラインで目元を真っ黒に縁取り、大きな瞳がパンダの様になっている。

 アイシャドウをギラギラと、瞼全体に塗り込み、真っ赤な口紅にグロスを、テカテカに着けているので、まるで人を食べて来た様に見える。

「…… あれは、アリなのですか…… ?」

 可愛い? 綺麗? とは……??

 自分の美的センスの自信が、ガタガタに崩れ落ち、チーフに問いかける。

 チーフは、ギギギッと、ぎごちなく横に向けると、目頭を押さえた。

「…… 俺の記憶からは、アレは抹消した」


 白鳥さんは、至極満足して、蓮斗さんとパーティーに出かけて行った。


「…… 頑張った私を褒めて下さいよ〜っ」

「女の敵は女…… ですね」

 プロ意識満載だった、私の小さなプライドは、見事敗れ去った。

「…… 私、やっぱり、彼女には勝てないわ…… 」

 ハーーーーッっと、深い溜息を吐くと、今まで、緊張して張っていた気が、フッと緩んだ。

 瞬間、目の前が真っ白になって、周りの声が遠のいて行った。
< 123 / 205 >

この作品をシェア

pagetop