離婚するはずだったのに記憶喪失になって戻ってきた旦那が愛を囁き寵愛してきます

「…… っ…… 、わかった…… 」

 彼はハーーーーッと一回、深い深い、溜息を吐いた。

「俺の方は、帰って来てからでも、いいか?」

 コクリと首だけで私は頷く。

「…… 行ってくる」

「行ってらっしゃい」

 頬を引き攣らせながら、私は微笑んだ。



 パタンッとドアが閉まった瞬間、張り詰めていた緊張が解けて、ガグガグと膝を震わせ、その場にヘタリ込んだ。

「どうしよう…… 本当に渡しちゃったよ、離婚届…… 」

 口元に手を当て、フッフッと短く息をする。
指先は、緊張から解放されたというのに、まだ白く冷えて小刻みに震えている。


「…… 仕方ないよね…… もうやめたいって、私との結婚生活を、こんな事やめようって、言われちゃったんだもの…… 」

 昨夜の言葉を思い出し、ブワッと重い感情が湧き上がって、涙が溢れてきた。

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