わたしのカレが愛するもの
第一章


世の中は、クリスマス一色。

街にはクリスマスソングが流れ、ありとあらゆるお店が赤と緑のデコレーションに彩られ、キラキラ輝くイルミネーションよりもキラキラした顔でイチャつく恋人たちが通りを行き交う。

華やかで、賑やかで、幸せ溢れるクリスマスイブ。
恋人とロマンチックなひとときを過ごすのに、これほど最適なタイミングはないだろう。

しかし。

夕城 千陽(ゆうき ちはる) 二十七歳。
幼馴染への二十五年越しの恋を実らせ、来年の春に結婚を控えているというのに、ひとりシャンパンを呷っている。

ホテルのこじゃれたバーで待ち合わせ……ではなく、おひとりさま限定とは名ばかり、ただ騒ぎたいだけの仕事仲間が集まったパーティーで。

人気DJだか何だか知らない、日本人なのか何人なのかわからない、正体不明の男性がかける音楽に、みんな身体を揺らし、はしゃぎ、とても楽しそうだ。

けれど、合流する気にはちっともならない。

致命的に音楽的才能も身体的能力も欠如しているので、ダンスと名の付くものは昔から苦手。
保育園のお遊戯会ではひとりまったくズレたタイミングで踊っていた(証拠のDVDがある)。

小学校では、「世界の民族音楽と踊りを学ぶ」とかいう授業で、フォークダンスをさせられて、ドミノ倒しを引き起こし、卒業するまでネタにされた。

中学、高校、大学でも似たような授業はあったけれど、こっそりずる休みする、という技を身に着けて(両親には怒られたけれども)、再び災害を引き起こすことも、悲劇に見舞われることもなかった。

これが欧米諸国なら、プロムだとかデビュタントでダンスをするだとかいう避けられないイベントがあったかもしれない。が、ここは日本。社交ダンスは「教養」のうちではなく、デビューすべき社交界もない。

日本人に生まれてよかったと心の底から思う。

でも、だからといって、「欧米人のように、公衆の面前で恋人とイチャつくなんてけしからん!」なんてことは思わない。

むしろ、イチャつきたい。
これでもかというほど、イチャイチャしたい。

初恋が実り、ようやく恋人を飛び越し、婚約者として初めて一緒にクリスマスを過ごせるのだ。
これまで温めてきて、温めすぎてドロドロに溶けている妄想を実現させられるときが、ついに来たのだ。

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