わたしのカレが愛するもの
「ちぃ。鍵持ってるんだから、そのまま入ってくればいいのに」
応答がないまま、コウくんが直接ドアを開けてくれた。
「だ、だって、お客さんが来てるのに、そんなことできない……」
「だから、そんな気遣いが必要なヤツラじゃないって」
笑いながらそう言うコウくんに「これ、お土産」と手にしていた箱を渡す。
「え? 『SAKURA』のマカロン? わざわざいいのに……。こんな高級なもの、それこそアイツらにはもったいないよ」
「パパがママのために特別注文しているのをくすねて来ただけだから」
「朔哉さんって、本当に偲月さんに甘いね」
「ママには、餌付けが一番効果的だから」
「あはは、いきものを手懐ける基本だね!」
広い玄関に散らばるスニーカーたちを避けるようにして靴を脱ぎ、コウくんの背を追いかけて……大きな水槽が据えられたリビングに一歩足を踏み入れるなり、唖然としてしまった。
ローテーブルの上に林立する酒瓶。山のような料理。散乱した紙ナプキン。
たぶんお土産だろう。謎の置物やちょっと食べるのに勇気がいりそうな謎のお菓子などが床に積み上げられている。
水槽の中の魚の数が減っていないか、心配になってしまう。
そんな惨状の中、大柄な四人の男女が大画面に映る海の映像を鑑賞していた。
『みんな、こちら婚約者の千陽』
コウくんがそう紹介するなり、振り返った彼らは同時に早口で話し始める。
『幼馴染だって言ってた彼女か?』
『うひょー、美女と野獣だね』
『いくつなの?』
『え? 二十七? ぜんぜんそうは見えないわ。もっと年下かと思った』
金髪をクルーカットにした大柄な男性は、ロバート。
茶髪を長く伸ばし、一つに束ねている細身の男性はリック。
癖の強い赤毛を爆発するがままに放置している小柄な女性は、アーシャ。
プラチナブロンドをショートカットにした手足の長いモデル体型の女性は、エルサ。
男性二人は、おどけて大げさに驚いてみせたが、女性二人は値踏みするような視線を寄越す。
特にエルサは、わたしを不躾なほどジロジロ見ている。
『コウ。彼女、仕事してるの?』
『うん。ファッションモデルだよ』
『ファッションモデルぅ?』
四人が四人とも、異口同音に叫んだ。