わたしのカレが愛するもの
滅多に緊張しないコウくんが、そんなに神経質になるなんて、よほどの大物と会っていたのだろうか……なんて思っていたら、責められた。
「え? わたし?」
「昨日から、何度電話しても繋がらないし! メッセージも既読にならないし! かといって、ちぃから連絡してくるわけでもないし!」
「え? え? でも……」
未だかつてない剣幕でまくしたてるコウくんにびっくりしながら、そんなはずない、と鞄からスマホを取り出し……愕然とした。
真っ暗な画面は、通知や着信がないからではなくて。
「充電切れてた……」
「だろうね」
コウくんの冷ややかな視線が痛い。
「……ごめんなさい」
「しかも、夜遊びしているし。ジョージさんから、いますぐちぃを迎えに来ないと昴にかっさらわれるぞって、メッセージを貰って、本当に焦った」
「あれは、昴くんはお芝居で恋人役をしてくれるって……」
「婚約者がいるのに、なんで恋人役が必要なわけ?」
「だって……コウくんは、忙しいし……」
「忙しくても、ちぃのためならいくらでも時間を作るよ。何のために、日本に帰って来たと思ってるの?」
「でも、だって……コウくん、わたしが相手だと……そのっ……そのっ……その、気になれないって」
「は? 誰がそんなこと言った?」
いままで聞いたこともないような、冷ややかなコウくんの声に、部屋の空気が凍る。
温度計があったなら、室温はマイナスを示すだろう。
「え……や、あの……それは……」
「アーシャ……ではないだろうから、エルサか?」
コウくんの眼力に耐え切れず、白状する。
「う……ん……」
「はぁ、ったくあの女。俺がどんな思いで耐えていたのか、何も知らないくせに! マリアナ海溝に沈めてやりたい……」
本気で実行しそうなくらい怖い顔をしたコウくんは、じとっとした目でわたしを睨む。
「あのさ、ちぃ。俺は草食じゃないって、父さん見ればわかるよね? ちぃを怖がらせるかもしれないと我慢してただけで、一緒にいるとき、いっつもとても口にできないようなことばかり考えてたんだけど?」
「…………」
どうやら、エルサがわたしに言ったことは、全部彼女のハッタリ、もしくは願望だったらしい。