わたしのカレが愛するもの

***


予想はしていたけれど、空港は年末年始を故国で過ごす人、休暇を終えて仕事へ戻る人、休暇を利用して旅に出る人、さまざまな理由で日本を離れる人たちでごった返していた。

四人が搭乗する予定の便は、遅れもなく定刻通りの出発となるようだが、混雑がひどいため、早めに保安検査場を抜けた方が良さそうだ。


『いろいろありがとう、コウ。実に有意義な一か月だったよ』
『むこうへ戻ったら、さっそく新しい共同プロジェクトを提案してみる』
『もちろん、結婚式には呼んでくれるわよね?』
『そのつもりだよ。春だから、満開の桜が楽しめると思う』
『サクラ! ああ、京都とか、奈良とかもう一度行きたいわ』


これから帰国するというのに、もう次の訪日の予定を話す彼らは日本を気に入ってくれたようだ。


『そうだ! 結婚したら、コウとチハルがこっちにおいでよ』
『そうだよ。どこへでも案内するよ? 西海岸も東海岸も』
『今度はこっちでクリスマスを過ごせばいい』


今度は自分たちが案内する番だという彼らに、コウくんはさらりと返す。


『もし、ちぃが妊娠していなかったら、考えるよ』

「こ、コウくん!」

『うわー。真冬なのに、コウの周りだけ花が咲いてる』
『暑くてかなわないぜ』
『ベビーが生まれたら、ジュニアの顔を見に来るわ』
『そろそろ、行くか』


保安検査場の列が短いいまのうちに、とリックがみんなを促す。


『元気でね』
『またな、コウ。チハル、コウをよろしく!』
『じゃ、結婚式で……って、おっと、コウ! そう言えば、XX教授の連絡先、貰ったっけ?』
『名刺は?』
『……財布に入れたような気はするんだけど』


この期に及んでごそごそと荷物を漁りだすリックに、みんな呆れ顔だ。

コウくんたちは、リックの荷物を一緒になって漁りはじめたが、口数少なく、短い相槌を打つばかりだったエルサは、手伝う気がないのか、少し離れて見守っている。

話すならいまだ、と思い、彼女に呼びかけた。


『エルサ』


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