わたしのカレが愛するもの
第二章

*****


「ね、コウくん。どっちがいい?」

「んー、どっちでもいいよ。ちぃの好きな方にすれば?」

「もーっ! ちゃんと考えて!」

「ちゃんと考えても、どっちでもいいんだよ」

「…………」


溜息を吐く代わりに、熱帯魚たちへ餌やりをしている広い背を睨む。

いつもと変わらぬ休日。
リビングの中央にそびえる大きな水槽に、色とりどりの熱帯魚が泳ぐコウくんのマンション。
わたしが眺めているのは、彼と同じ「魚」ではなく旅行会社のパンフレットだった。

来春の結婚式のあと、新婚旅行に出かけることは決めていたが、肝心の行き先が決まらない。

わたしの希望は欧州か北欧なのだけれど、コウくんは米国以外ならどこでもいいと言う。
どこでもいいと言われると、かえって決めづらい。


「あ、でも、南半球の島なら、イルカやクジラと泳いだりできるよ? 時期的にハワイがいいかな」


振り返ったコウくんは、目をキラキラさせている。


「……わたし、カナヅチなんだけど」

(そして、グラビアアイドルじゃないから、水着で日焼けとか厳禁なんだけど)

「大丈夫。カナヅチでも人間は浮くようにできてるから」

「そういう問題じゃないし!」

「浮き輪を使ってもいいんだし」

(そこは、ぼくが一緒に泳いであげるよって言うところじゃないのっ!?)

< 5 / 47 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop