純恋歌
「あ、見て見て子鹿だ可愛い」

「ほんとだバンビちゃん可愛い」

「あははは!」

「え?何がおかしいんですか?」

「剛君がバンビだわ」

その時勘違いしてたが、子鹿はバンビではなく『fawnフォーン』と言うようだった。

ちなみにバンビはイタリア語で『ガキ』だった。

「またそうやって僕をガキ扱いして」

不貞腐れる僕に美咲さんは

「これ美味しいよ」

ソフトクリームを食べさせてくれた。

「あ、ほんとだ美味しい!」

「食べ物で機嫌直るって子供みたい」

頰を付いて優しい目をして言われた。

僕は自立してるから自分の中では大人になってると思ってた。

けれどやっぱり歳上の女性の前では掌で簡単に転がる子供だったようだ。

「まさか美咲さんと宮島に来れるとは」

「私と来れて嬉しい?」

見てるだけで満足だった存在の人とこうして二人でデートしてるのが夢のようで不思議だった。

「よいしょ!」

「危なくないですか?」

「大丈夫大丈夫!」

そう言って美咲さんは防波堤に上がった。

「落ちないでくださいよ」

「大丈夫だってば!そんなに運動神経悪くないから!」

そうは言うけど少し心配になる。

「じゃあ手!」

「え?」

「手繋いで!」

美咲さんは防波堤の上から左手をおろしてきた。

僕はそっと右手をさしだして繋いだ。

「意外と手大きいんだね」

「美咲さんは手柔らかいんですね」

「……スケベ」

「あ、ちょ…そう言うわけじゃ…」

慌てて言う僕に意地悪そうな顔をする美咲さんがまた可愛く見えた。

「もう防波堤から降りたんですけど?」

そう問われたが僕は美咲さんの手を離さなかった。

「まあ、良いか、あ!見えた!」

美咲さんはブンブン手をご機嫌に振り回して水族館が目に入りテンションが一段階上がった。
< 119 / 231 >

この作品をシェア

pagetop